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多々木さんの、肩たたき器  作者: 大原英一
第一話 肩ならし的な事件
3/20

セキュリティ

3 2013/09/27


「それで、御社の業務内容というのは」

 オレは訊いた。それを教えてもらわないと、話にならない。


「うちはね、なんでも屋だ」多々木氏は言った。「探偵みたいなこともやる。いろいろ調べたり報告したりね。信用が大事なんだ。ボクを信用して、そういう依頼が来るんだよ」

「派遣事業のほうは……」

「将来的には事業の柱に加えたいと思っているよ」彼は嬉しそうだった。「派遣に詳しい山元さんがいてくれたら、大助かりだ」

 オレはほんの一瞬考えた。そして訊いた。

「オレは、なにをやればいいんです」


 面接で「オレ」はないだろう、と言ってしまったあとで思った。オレのなかで、もはやここはふつうの企業という認識ではなくなっていた。だが、同時に惹かれる部分もあったのは、たしかだ。


「もちろん、なんでもやって貰うよ。さっきの彼女、若林さんも同様だ。秘書とか経理とか営業事務とか、じつは隔てがないんだ。小さい会社だから、そこはわかってほしい」

 すでにオレのなかで答えは決まっていた。なんだかよくわからないが、ここはめっちゃ楽しそうだ。


「わかりました」オレは背筋を伸ばして言った。「あらためて、よろしくお願いします」

「うん、ありがとう」

 多々木氏は満足げに頷いた。


「じゃあ、さっそくビジネスの話をしようか。お金の話だ。時給はいくらと聞いてる?」

「一六〇〇円……です」

 しまった、素で答えてしまった。もっと吊り上げればよかったか……。いや、でも試されている可能性もあるしな。


「そう。それじゃあ、時給は一六〇〇円にしよう。で、ボクとしてはキミに、月額一六万円は保証する。はい、すると月の稼動は何時間?」

「一〇〇時間です」

 オレが即答すると、多々木氏は握手を求めてきた。

「そういうこと。逆にいえば、月に一〇〇時間はキミを拘束するということだ」

 月の稼動が一〇〇時間なんて、めっちゃ少ないほうだ。正社員なら残業だけでそれくらいする人もいる。


「一〇〇時間を超えた場合は?」

「そこからは交渉になる。キミが『もうちょっと働きたいんですけど』と擦り寄るかもしれないし、ボクが『いや、必要ない』と突っぱねるかもしれない。その逆も当然ある。ボクが『お願い、残って』というのに、『いや、今日は予定があるので』と突っぱねられるケースだ。これは若林くんの常套手段でもある」

 多々木氏はパーティションのむこうにいるであろう彼女にむかって舌を出した。お茶目な人だ。


 とりあえずオレは納得した。ひとつわかったことは、やってみないとわからない、ということだ。探偵の仕事など想像のほかだった。



 今日の午前中にここへ面接に来て、速攻で採用となり、即日稼動となった。お昼にはもうこのオフィスで三人でお弁当を食べていた。階下のほか弁だ。初日ということで多々木さんがおごってくれた。


「えっと、食べながら聞いてください」多々木さんが言った。「今日からうちの会社にあたらしい仲間が増えました。山元聡さんです」

「わー、ぱちぱちぱち……」

 若林さんが囃してくれた。けっこうノリがいい。


「自己紹介的なことは仕事中に各々やっていただくとして、この職場での超基本的なルールを説明したいと思います。はい若林さん、それはなんでしょう」

「はい社長、それはセキュリティです」

「正解」

 社長って呼ばれているのか、この人……。たしかに、多々木さんって呼びにくいしな。


「この職場には、いくつもの警報機が設置されている。これはボクら自身と、ボクらの財産を護るためのものだ。ヘンな例で申し訳ないけど、山元さんがもし若林さんにセクハラしたら、即通報されるから覚悟したほうがいい。逆にセクハラされたら、山元さんが通報すればいい」


「しませんよ、そんなこと」

 若林さんが頬を膨らませた。

「うん、それでいい」

 多々木さんは鶏の唐揚げをかじりながら言った。

「意識するのは大事だよ?」

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