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多々木さんの、肩たたき器  作者: 大原英一
第一話 肩ならし的な事件
2/20

ワカメっ毛

2 2013/09/26


 面接の日がやってきた。株式会社スパンキーとかいう、得体の知れない会社だ。

 オレは履歴書を準備して、ひさびさにスーツを着て出かけた。わりとローカルな駅で降りて、目的地まで一〇分くらい歩いた。


 予想どおりの雑居ビルだった。つーか、これってビルなのか……。一階がほか弁で、その二階だった。二階しかなかった。よくある、町の会計事務所みたいな感じだ。

 階段を上がって行くと、社名のプレートが貼ってあるドアにつき当たった。オレはひとつ深呼吸し、呼び鈴を鳴らした。

 ガチャリとドアが開き、男が顔を出した。

「あ、もしかして山元さん?」

 男はフランクな感じで言った。


「おーい、ワカメっ毛。山元さんが来たよ、お茶だしてーっ」

 男が大きな声で言うと、部屋の奥から「はーい」と返事があった。誰だ、ワカメっ毛って……。

「やあ、よく来てくれました。ボクはこういう者です」

 言いながら男は名刺を差し出した。


【株式会社スパンキー 代表取締役 多々木一 Hajime Tataki】


 たたきはじめ、というらしい。ローマ字がなかったら、ちょっと読めそうにない。

「本日面接にうかがいました、山元聡ともうします。よろしくお願いします」

 オレはすすめられたソファから立ちあがって言った。ここはパーティションで仕切られただけの、お世辞にも応接室とは呼べないスペースだった。


「失礼します」

 声と同時に女性があらわれた。盆に湯飲みをふたつ載せている。彼女がつまり、ワカメっ毛だろう。

「秘書のワカメっ……若林くんです」

「若林です。よろしくお願いします」

 女性はぺこりと頭を下げてから去った。あの電話の若林さんか……イメージと違った。まあ、彼女のことは今はいい。目の前の男に集中だ。


「えっと、うちの募集はなにで知ったの?」

 当然の質問だったが、オレにとって簡単な質問ではなかった。

「それが……はっきりと憶えていないんです。自分の字で、御社の連絡先と職種と、時給だけメモしてありました」

 オレは正直に言った。われながら恥かしかった。


「ほう、それは興味深い」多々木氏は目を輝かせた。「うちは信用にかかわる商売をしていてね。滅多やたらに声をかけているわけじゃないんだ」

「はあ」

 答えようがなくてオレは黙った。

「山元さんって、これまで、なにをやってた人?」

「派遣です」

「ずっと?」

「そうです、一〇年以上」


「なるほどね……」

 多々木氏はうんうんと頷いた。

「うちも、労働者派遣事業の許可、とってあるんだよ」

「え、じゃあ派遣会社なんですか、ここ」

「残念ながら、まだ実績はないけどね」

 そう言って彼はニッと笑った。


「まあ、いいや。じつはね、山元さんのお名前はあらかじめ聞いていたんだ」

 やっぱり、とオレは得心した。

「一体どこから」

「悪いけどそれは明かせない。信用にかかわるもので」

「それは……」

「キミも、うちの名前の出処を知らないようだし、お互いに痛み分けってことで、いいんじゃないかな」

 オレは言葉を失った。これはつまり、仲介人不明のお見合いみたいなものか。


「どうだろう、キミさえよければ、ぜひうちで働いてもらいたいんだけど」

「えっ、オレでいいんですか」

 はっは、と多々木氏は笑った。

「たしかに、気味が悪いよね。キミはうちの会社のこと、なにも知らないんだから。でも、うちはキミの実力を把握している。信用のおけるルートから、名前をいただいているわけだから」


「そのルートは明かせない、と」

「残念だけど。でも、キミもこの業界が長いんだから、わかると思う。良い人材として名が通るのは、悪いことじゃない」

 そう言って多々木氏はお茶を啜り、またオレにもすすめた。

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