(21)大丈夫ですよ。僕、童貞のオタクですから。
四人がホテルに戻ると、ロビーでジュンが待っていました。
「なんだ、お前いたのか」闘四郎が露骨に不機嫌な顔をします。
「もちろんですとも。何日でも待つつもりでいました」ジュンはそう言って嬉しそうに蛍に駆け寄りました。
――と、そのとき蛍の様子が少しおかしいことに気づきます。
「蛍さん、どうかしたんですか?」
「ピラミッドの中で痴漢にあったのよ」答えたのはキースでした。
「ああ、あそこは日本人を狙った痴漢が多いらしいですよ。日本人はおとなしいから」ジュンが言います。
「もう大丈夫よ。それよりジュン君、焼売フェス、見てくれてたんですって?」
蛍は話題を切り替えました。
「はい。話したいことが山ほどあります。実はさっき、ここの最上階にあるキング・スイート・グーテンビューという部屋を取ったんです。そこでゆっくりお話ししませんか?」
「何だよ、お前。やけに手回しがいいな」闘四郎が一歩詰め寄ります。
「アンタ、お金持ちなのね」キースがいつもの癖でスカートをパタパタ扇ぎながら上目遣いでジュンを見ました。
「最上階からピラミッド見えるのかな」ジョッキは目を輝かせています。
「皆さん一緒にどうです? ジャグジーもあるらしいですよ」
「いいの。この人たちは」蛍がきっぱり言いました「私はジュン君と話がしたいの」
「いや、二人っきりはやべーだろ。お前、人妻なんだから」闘四郎は明らかに動揺しています。
「大丈夫ですよ。僕、童貞のオタクですから」
「全然大丈夫じゃねーだろ!」
「安心して。私に指一本でも触れたら、不同意性交で訴えてやるから」蛍はにっこり笑ってジュンを見ました。
「もちろんです。僕は一介のホタルさんファンですし」
少し間を置いて
「それに童貞ですから」
「お前、そこ強調しすぎじゃね?」
「ほら、本人がそう言ってるんだから大丈夫よ」
蛍はエレベーターへ向かいながら言いました。
「行きましょ、そのキングサイズのなんとかって部屋に」
こうして蛍とジュンは、残された三人の恨めしそうな視線を背中に受けながら、エレベーターに乗り込みました。
エレベーターのドアが音もなく閉まり、二人の姿が見えなくなると、闘四郎は急に不安に襲われ、頭を掻きむしりながらロビーを往復し始めるのでした。




