(20)残してきた感触
しばらく進むと、四人は狭い上昇通路を一列になって登り始めました。
天井が低いので頭を引っ込めなければなりません。
急な坂を両脇の手摺を掴む手に力を込めて登っていると、最後尾の蛍が前を登っていた闘四郎に言いました。
「ちっと前行かせて」
「どうしたの?」闘四郎が振り返ります。
「後ろの人が触ってくるの」蛍の顔が恐怖で真っ白です。
蛍のすぐ後ろに白っぽい長いワンピースを羽織り、頭にターバンを巻いた現地の男がいます。
薄暗い通路で、男の顔は更に深い闇の中に沈んでいましたが、二つの眼だけが不気味に光っています。
異国の地、逃げる事の出来ないピラミッドの奥深く、無表情で痴漢をする現地の男。
気の強い蛍がこんなに怖がっているところを見たのは初めてでした。
闘四郎は蛍の肩を抱いて前に行かせました。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」蛍の声は震えています。
再び登り始めると、後ろの男が、両側の手摺を掴む闘四郎の脇を強引に突破しようとしてきます。
しつこい奴だ!
押し返す闘四郎。
それでも男は強行突破を諦めません。
男の後ろには同じような格好の男が二、三人います。
闘四郎が恐怖に駆られ一瞬怯んだ隙に、男は蛍との間に割り込んできました。
咄嗟に蛍の身体を引き寄せる闘四郎。
異変に気付いたキースが上から戻ってきます。
「どうしたの?」
「こいつら蛍を触ってくるんだよ」闘四郎が言います。
「なんていうことでしょう!」キースが金切り声を上げました。
「ほら、あんたら先行って!」キースは身振りで現地の男たちを先に行かせようとします。
男たちはしばらく逡巡していましたが、諦めて元来た道を引き返して行きました。
闘四郎は、蛍の震えが収まるまで優しく抱き締めてあげています。
蛍の腕が闘四郎の身体に固く巻き付きます。
こうしていれば、もう怖いものなど何もありません。
時間が、あの頃に一気に巻き戻されました。
見つめあう二人。
このまま二人だけで地球の中心まで落ちて行こう……
その時、キースの声が二人を現実に戻しました。
「ほら、さっさと見学終わらせちゃいましょうよ! またあいつらが来ないうちに!」
四人は先を急ぎ、王の間を見学すると、そそくさと元来た道を戻りピラミッドの外に出ました。
照り付ける太陽の下に立ちすくみながら、蛍と闘四郎はピラミッドの奥に残してきたお互いの身体の感触に、手を伸ばそうとしましたが、硬い石の壁に阻まれて、叶うことはありませんでした。




