(17)馬鹿
さて、翌日のことです。
四人はせっかくなのでピラミッド見学に行くことにしました。
歩いていると道端の露天商から声が飛んできます。
「アントニオ猪木!」
「やーね、乙女に向かってなんてこと言うのかしら」キースがふくれます。
素通りすると後ろからまた「アントニオ猪木!」という声がしました。振り返ると、日本人の観光客がさっきの露天商の前を通り過ぎるところでした。
どうも日本人と見ると気を引こうとして声を掛けているようでした。
ピラミッドの近くまで来ると今度はラクダに乗れとしつこく付いてくるおじさんに捕まってしまいました。袖を掴んで離さないおじさんから、蛍は小走りで逃げます。闘四郎とキースも後に続きます。
そして、ここまで来れば大丈夫だろう、という所で立ち止まりました。
ジョッキがいません。捕まってしまったのでしょうか? 心配そうに人ごみを透かして見る三人。
すると、さっきのおじさんが曳くラクダの背に乗ったジョッキが、満面の笑顔で、悠々と登場するではありませんか。そしてピラミッドをバックに写真を撮って貰っています。
「いいなー」とにかく逃げてきた三人は羨ましそうにつぶやきます。ジョッキに料金を聞くと、そんなに高いものではありませんでした。でも、逃げてきた手前、今更乗りたいなんてとても言えませんでした。
そんなこんなでクフ王のピラミッドの真下に到着した四人は、とうとうその威容を仰ぎ見ることが出来ました。
「なんか、思ったより高く無いなー」蛍が、ちょっとがっかり、みたいに言います。
「でも、やっぱりでかいことはでかいよね」闘四郎が言います。
「でかいけど、世界一でっかいか? って言われたら、そうでもないかもしれないわね」キースがスカートの裾を引っ張りながら見上げます。
「クフ王のピラミッドは高さ約140メートル。麻布台ヒルズは高さ330メートルだから、そういうのに見慣れてると驚きは少ないのかもしれないね」ピラミッド好きのジョッキが解説します。
「それに高層ビルを近くで見上げると首が痛くなるけど、クフ王のピラミッドの勾配は約54度だから、それほど高く感じないのかも」
「なるほどね」闘四郎が感心します。
「でも、これ、石を一つ一つ積み上げて作ったっていうのは、とんでもないことだわよね」キースが言います。
「石は全部で200万個。2万人位が20年位従事したんじゃないかって言われてる。そんな建造物は今まで他に無いし、これからも無いだろうね」ジョッキが憧れをこめて口にします。
「ロックの曲って何曲あるか分からないけど、それを何十年も掛けて積み上げてきたロックミュージシャンにも敬意を払うべきね」
蛍は内心で「ロックって岩っていう意味に引っ掛けて『上手いこと言うね』って言って貰おうとした訳じゃないのよ」と思いましたが、すんでのところで口に出さずに済みました。
「しかし、こんなもん20年も掛けて作っちまう人間って凄いけど、ある意味馬鹿だよね」闘四郎が言います。
「アタシたちみんな、馬鹿ってことじゃないかしら?」
キースの言葉がメンバーの腑に落ちました。




