(16)虹
そう言いながら蛍はライティングデスクの前の椅子を部屋の真ん中に持ってくると闘四郎をそこに座らせました。
そして荷物の中から今度はロープを取り出すと、闘四郎を後ろ手に椅子に固定しました。
「えっ、何してんの?」驚いた闘四郎が声を上げます。
「怪我人はおとなしくしてなきゃ駄目」
蛍はそう言うと一人掛けのソファーに、窓をバックにして深々と腰を下ろしました。
「私にだって欲望はあるわ。他の男に抱かれたいっていう瞬間もね」
「うん」対面する闘四郎が言います。
「でも、そんなものに一々身を任せていたらどうなる? 家庭の崩壊でしょう? でも、家庭が私にとっての一番なの。そういうこと」
「そうやって、一生我慢し続けるのかい?」
「我慢はしません。そんな欲望は手早く片付けてしまえばすぐに消え去ってしまうもの」
そう言いながら蛍は立膝をし、デニムのスカートの奥に手を這わせます。
縛られた闘四郎は目を凝らしますが、窓から差し込む砂漠からの逆光が邪魔をします。
見えそうで、見えないっ!
砂漠の逆光が、その奥にある真理に視線が到達することを阻んでいるっ!
見えるか? 見えないか?
見えたか? いや、見えてないのか?
「蛍ちゃん、俺もう無理、はちきれそう」
「そう? じゃあ私が楽にしてあげる」
蛍は立ち上がるとソファーを闘四郎のそばに寄せました。ジッパーからそれを開放してやると、もう一度ソファーに座りそれを足先でなぶります。
そうしながら、もう一度静かに目を閉じました。
程なく二つの虹が掛かります。
「これはギリ浮気ではありません」蛍が宣言しました。
「そういうもの?」ぐったりした闘四郎が口に出来たのは、やっとそれだけでした。




