(15)行ったり来たり
その時、AとBが同時に目を覚ましました。
「ソファーでなんて寝てないでこっち来いよ」
Aがベッドの上から声を掛けます。
「あたし、自分の部屋に戻る」
Bは立ち上がろうとした途端、床に転がってしまいました。
毛布をむしり取ろうとすると、自分が上半身裸であることに気付きます。
「また、やっちまったな」
Bは独り言ちました。
昔からライブ後の高揚の中で酒を飲みながら、着ている物を剝いでいく癖があったのです。
Bは身を起こすと、転がっているKの横を通って部屋を出ました。そして、デニムのスカートの尻ポケットからカードキーを取り出し、向かいの部屋に入りました。
ドアがドアストッパーの油圧で閉まっていきます。
閉まる、閉まる、閉まってしまう。
その時、閉まりかけたドアの隙間に向こう側から手の指が差し込まれ、ガッ、という鈍い音がしました。
Bは慌ててドアノブを掴み、ドアを開けます。
Aがこちらを見つめて立っています。
「大丈夫だった?」とB。
Aが無言で手を差し出します。
差し出された手を取り、赤くなっている指をしげしげと見るB。
「来て」
そう言って蛍は闘四郎を部屋の中へ招き入れました。
「商売道具は大事にしなきゃ駄目じゃない」
「俺にはお前の方が大事だよ」
「良くそんな歯の浮くようなセリフ言えるわね」
「セリフじゃないよ、俺の本心だ」
「あなたの本心っていうのは、欲しいってことだけでしょう?」
一瞬言葉に詰まる闘四郎。
「それじゃ駄目かい?」
「駄目ね」
蛍はそう言うと荷物の中から湿布を取り出しました。そして、闘四郎の右手の人差し指から小指までの四本をまとめて湿布で巻きました。
「これじゃ、何にも出来ないよ」
「それでいいの」
朝の陽光の差し込む部屋からは、三つのピラミッドが毅然として聳えているのが見えました。
「俺、判ったんだ。俺は蛍とライブしている時が一番好きだし、蛍のことが一番好きなんだって」
「一番と二番の間を行ったり来たりしてるんじゃないの?」
「ちゃかすなよ」
「とにかく、あなたが私のことをどう思っていていようと、私には私の家庭があるし、私はそれを裏切ることはしないってことだけは覚えておいて」




