(10)蛍からネルへの手紙
みんな元気? お母さんは元気です。アイロンズのワールドツアーで家を出てきてしまったこと、ごめんね。
お母さんは今エジプトにいます。街で、結婚式に向かう花嫁の行列に出会いました。
大きなタンバリンみたいな打楽器を打ち鳴らす人が先頭にいて、その民族古来のリズムにバンドのメンバーが皆刺激を受けました。
それで、新しい曲のアイデアが皆から次々出てきて、セッションしながら次第に曲が出来つつあります。
歌詞はお母さんの担当です。曲名は『ギザの花嫁の踵に三つの四角錐』です。
サビは「四角錘 それは底面積掛ける高さ掛ける三分の一 それが三つで三掛ける だったらそれは四角柱」です。ちょっと何言ってるか分からないかな? 大丈夫、お母さんも良く分かってないから。
それはさておき、エジプトの次はインドでタブラ奏者であり「タケタテカケタ」の早口言葉第一人者のウスタッド・アラ・ラカ・カーンとザキール・フセインの親子に会った後、チベットに行く予定です。
チベットには人間の大腿骨で作った笛があるんだって。素敵じゃない?
こんな歌詞の曲を考えています。
「大腿骨に息を吹く 青空高く風吹いて 死と生が巡り巡って カラカラ鳴る 生と死が回って平らになる」です。ちょっと何言ってるか分からないかな? 大丈夫、お母さんも良く分かってないから。
でも、この歌詞を口ずさむと、普段意識はしていないけど、心の奥底にある死への恐怖が少し紛れるような気がします。
結局お母さんの生を燃やし尽くそうとするみたいなバンド活動も死への恐怖を和らげる為の死の予行演習のような一面もある様な気がしてます。
つまり死を手なずけようとする試みっていうか。詩や小説を書いたり読んだりすることだって同じゃないかな? ちょっと何言ってるか分からないかな? 大丈夫、お母さんも良く分かってないから。
お母さんの我儘の為に皆に寂しい思いをさせること、本当にごめんね。
でも、ステージの上でギターをかき鳴らし、声を限りにシャウトし、観客と一緒に熱狂の渦に巻き込まれること、それはお母さんにとって掛け替えのないものなのです。
家庭人としては失格だけど、これが生きてるってことなんだと感じるのです。
でも、もちろん家族が私にとって何よりも大事であることに変わりはありません。矛盾してるよね。ごめんね。
ではまた手紙出します。身体に気を付けてね♡




