第9話 海軍士官候補生との会話
「海を象った紋章……ってことは、軍の人間か?」
青年は胸を張って言った。
「王国海軍士官学校・第三期生、アーネスト・ラグナだ。ここの店にはよく来る」
「士官学校、ね」
俺が少し興味を示すと、アーネストはニヤリと笑った。
「さっきの話、聞かせてもらった。船の修理に、帆の使い方、波と風の読み方。あれ、本当か?」
「嘘言ってどうする。俺の命も載ってた船なんだぞ」
「だとしたら、とんでもないことだ。そんな話、俺たちだって教わったことがない」
アーネストは椅子を引き寄せ、ずいっと詰め寄ってくる。
「どこでそんな技術を身につけた? どこの艦隊だ?」
「“別の世界の海”とでも言っておこうか」
「は?」
冗談とも本気ともつかない答えに、アーネストは眉をひそめたが、すぐに笑い飛ばした。
「いいさ。秘密にしたいなら聞かない。だが――」
彼は真剣な目つきになった。
「その知識を、本気でこの国の海に使う気があるなら、海軍は絶対にあんたを放っておかない」
「そんなに人手不足なのか?」
「海は広い。だが、海を知っている人間は少ない」
彼はそう言って、薄く笑った。
「明日、時間はあるか? 士官学校の教官に、あんたを紹介したい」
思ったより展開が早い。だが、悪くない流れだ。
俺はスプーンを置き、少しだけ考えた。
このまま港町の料理屋でくすぶる道もある。
だが海軍士官学校とやらに出入りできるなら、より多くの“海に出る人間”に知識をばらまける。
(海図も、航法も、安全意識も。根本から変えられるかもしれない)
それは結局、この世界で死ぬ人間の数を減らすことにも繋がる。
「明日の予定は、特にないな」
俺は頷いた。
「教官ってのがどんな連中か、ちょっと興味がある」
「話が早くて助かる!」
アーネストは嬉しそうに笑い、手を差し出してきた。
「ようこそ、ラグナの海軍へ――ってのは、まだ早いか」
「まあ、入るかどうかは話を聞いてからだな」
握手を交わした瞬間、なんとなく、この世界との距離が一歩縮まった気がした。




