第7話 初めての港町ラグナ
それから二日後。
見張りの叫び声で、俺は目を覚ました。
「陸だ! 陸が見えるぞ!」
甲板に飛び出すと、薄く朝焼けに染まる水平線の向こうに、ぼんやりと陸地が浮かんでいた。
近づくにつれ、それが単なる海岸線ではなく、大小の船が行き交う港町であることが分かってくる。
高くそびえる石造りの塔。
海沿いに並ぶ倉庫群。
吹き流しのはためく桟橋。
魚と油の匂いが、海風に乗って届いてくる。
「ここが……?」
「ラグナ港だ。大陸南岸屈指の交易港だぞ」
船長が、誇らしげに胸を張った。
「よくぞ、ここまで辿り着いてくれた。あなたがいなければ、この船は途中でバラバラになっていただろう」
「俺一人の力じゃないさ。皆が頑張った」
そう言うと、周りにいた船員たちが、照れくさそうに頭をかいた。
「結局、一番働いてたのはあんただけどな」「あのスープは忘れねぇ……」
桟橋に船が横付けされると、係員たちが縄を受け取り、手際よく固定していく。
木製のタラップが下ろされ、久しぶりの陸地が足元に迫った。
甲板から下を見下ろしていると、船長が俺の肩を叩く。
「海斗殿。約束通り、礼をさせてくれ」
「礼と言ってもな……」
「まずは、ラグナでも評判の料理屋を紹介しよう。あんたの腕なら、きっと退屈しない」
そう言って、船長はいたずらっぽく笑った。
「それに、海軍関係者もよく出入りしている店だ。あんたの話を聞けば、きっと放ってはおくまい」
(海軍、か)
この世界の海をどう動かすか考えるなら、一度は接点を持っておきたいところだ。
「分かった。じゃあ、晩飯の一軒目は、そこに行こう」
俺はタラップを降りながら、ふと振り返った。
ボロ帆船。
補修だらけで、まだところどころきしんでいる。
だが、あの嵐を越えた今の姿は、どこか誇らしげにも見えた。
(最初の“現場”としては、悪くない船だったな)
タラップを降り切ると、足の裏が陸の硬さを思い出した。
第二の人生の、本当の意味でのスタートが、ようやくここから始まる。




