第6話 星空と、この世界が“異世界”だという確信
夜になった。
嵐はすっかり遠ざかり、波もだいぶ穏やかになっている。
甲板に出ると、空一面に、びっしりと星が散りばめられていた。
昼間は曇っていて分からなかったが――。
(……おかしい)
見上げた瞬間、俺は確信した。
知っている星座が、一つもない。
北斗七星も、オリオン座も、夏の大三角も、どこにもない。
代わりに、見たこともない配置で、星たちが天を埋め尽くしている。
「どうした、海斗殿。寒いなら中に入っても――」
「いや、大丈夫。ちょっと星を見てただけだ」
背後から声をかけてきた船長に、俺は苦笑した。
「この世界の人間は、星をどうやって使ってる?」
「どう、とは?」
「夜の航海で、星の位置から方角を知るとか、そういう技術はないのか?」
「……聞いたこともないな。星は神々と精霊の住まう場所だ。恐れ多くて、航海の道具にはできんよ」
(なるほど、“天測”も未発達か)
俺が今まで積み上げてきた知識が、そのままでは使えない。
だが、応用はできる。星の位置に意味を与えればいい。
いつか、この空に、新しい“星図”を描く日が来るかもしれない。
「海斗殿は、星で道を読むのか?」
「ああ、前の世界ではな。今は、この星空のことを何も知らない。ただ――」
俺は空を見上げたまま、呟いた。
「覚えればいいだけだ。どこの世界の海だって、最後は“慣れ”だ」
船長はしばらく黙って星を見ていたが、やがてぽつりと言った。
「あなたの言う“前の世界”というのが、どんな所かは知らん。だが……」
「だが?」
「あなたの知っていることは、この世界にはあまりにも多すぎる」
それは褒め言葉でもあり、警告でもあった。
異質な存在は、頼りにされる一方で、恐れられる。
(まあ、それはこっちの世界でも同じか)
俺は肩をすくめた。
「だからこそ、“役立つ”ことを証明するしかない。海で死にたくない奴は、多いだろ?」
船長はふっと笑い、背を向ける。
「その通りだな。港まで、もうひと踏ん張り頼むぞ、海斗殿」
「ああ。任せろ」
船長が去った後も、しばらく俺は星空を見上げていた。
地球じゃない空。
地球じゃない海。
地球じゃない文明。
不安がないと言えば嘘になる。
だが、胸の奥にはそれ以上に、強い感情があった。
(ここは“伸びる”)
海も、船も、飯も。
ちょっと知恵を足してやれば、いくらでも良くなる。
だったら。
「――面白ぇじゃねえか」
思わず笑いが漏れた。




