第22話 白銀の少女、海の男の台所へ
エルノアが目を覚ましたのは、
森の闇が深まり、焚き火が小さく揺れている頃だった。
まぶたの裏に残る“衝撃の味覚”が、
まだ脳を震わせている。
(……あれは……夢では、ない……
あの香りと、あの熱……身体の奥まで満たすあの感覚……)
覚醒するほどの旨味。
生涯で感じたことのない衝撃――
それが、彼女をここへ連れてきた。
視線を横に向けると、
焚き火越しに、ゆっくり槍を研ぐ男がいた。
海の男らしい、無駄のない動き。
火に照らされた横顔は、
どこか寂しく、しかし温かい。
「……起きたか」
静かな声が、夜の森に優しく落ちる。
少女は思わず胸に手を当てた。
「あなたが……助けてくださったのですね」
「助けたのは料理だ。俺じゃない」
淡々と、だが否定するでもなく言う。
その言葉がかえって胸を揺らした。
「あなたの……料理が……
私の命を、救いました」
告白のような響きに、カイトは目を細める。
「……そうか」
エルノアの胸が再び熱くなる。
自分自身でも理解できない感情。
だが確かに“そこにある”と分かる。
震えを押さえきれず、
彼女の唇が自然と動く。
「わ、私は……あなたに、一生ついていきます……
そして……(料理に)この身を捧げます……!」
焚き火がぱちりと弾け、二人の影が揺れる。
カイトはしばらく沈黙したのち、
小さく笑った。
「……重いが、まあいい。
料理の話なら歓迎する」
エルノアは胸に手を当て、深く頷いた。
「あなたの食は……
私の世界を変えました。
あれほどのものを作れるのなら……
私は、あなたのそばで学びたい……!」
「そうか。なら、手伝ってもらうことになるな」
二人だけの夜の焚き火。
どこか遠くで獣が鳴く。
だが、エルノアにはもう何も怖くなかった。
それより――
(この人の料理を、もっと……感じたい)
胸が熱く脈打つ。
カイトは焚き火に薪を一本くべ、
立ち上がった。
「……エルノア。
行くぞ。やることがある」
「やること……?」
エルノアの白銀の瞳が揺れる。
カイトは夜空を見上げながら言った。
「次に作る料理のためだ。
お前にも、手を貸してもらう」
エルノアは胸に手を当て、
静かに深く頷いた。
「はい……あなたの隣へ。
どこへでも」
その焚き火の光の中から――
“骨鍋地獄”と“新たな料理の誕生”は始まる。




