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ボロ船から始まる異世界大航海 ――おっさん航海士、料理と技術で世界を作り変える  作者: 三好タオ


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20/23

第20話 山へ続く静けさの道

山の呼吸と、海の男の勘**


「……もう限界だな」


講義が終わったあと、カイトは机に手をついた。

今日も保守派の嫌味がひどかった。


「航海とは勘でするものだ」

「学生に余計な知恵をつけるな」

「特別教官は黙っていてほしいものだ」


その一言一言は、刃ではなく“重し”だ。

じわじわ積み重なり、呼吸を奪っていく。


(俺、海にいたときはこんなに息苦しくなかったのに)


海には風があり、太陽があり、

船には役割と規律があった。


しかし教官という立場は、

思っていた以上に政治と圧力にまみれていた。


そこへ校長フロルドが現れ、

カイトの肩を軽く叩いた。


「カイト君、顔色が悪いね」


「バレます?」


「海の男は、心が濁るとすぐ目に出る。

 私は海軍で何百人も見てきたよ」


(……この爺さんには敵わないな)


フロルドは椅子を引き、

カイトの前に腰を下ろした。


「気分転換が必要だ。

 山に行くといい」


「山、ですか?」


「海は君の“故郷”だ。

 だが、山は“静けさ”をくれる。

 そして静けさは、船乗りにとって欠かせないものだ」


カイトは息をついた。


(確かに……気が張りっぱなしだ)


フロルドは続ける。


「ただ歩くだけでもいいが、

 どうせなら――つまみを取ってくるといい」


「つまみ……?」


「魚でも肉でも、君の料理は私も楽しみにしている。

 その腕を鈍らせるなよ」


その言葉が不思議と胸に落ちた。


海の男にとって料理は生存術であり、娯楽であり、

同時に“仲間との絆”でもあった。


料理をするとき、カイトはいつも“素の自分”に戻れた。


「……じゃあ、明日山に行ってきます。軽く狩りでも」


「うむ。その方がいい。

 山は今、少し静かすぎるようだがね」


(静か……?)


その一言が小さな伏線になった。


――翌朝。


カイトは海で使っていた簡易調理セット、

小型の火打ち石、布袋、槍、ナイフを背に、山へ向かった。


学院裏の森へ入ると、空気の質が変わった。


潮風とは違う、湿度を含んだ冷たい風。

土と草の匂いが混じり合い、足元の葉がさらりと滑る。


(こういう匂い、けっこう落ち着くんだよな)


海では波と風。

山では音と影。


どちらも自然と対話する生存感覚がいる。

その“勘”が、カイトの頭を静かに研ぎ澄ませていく。


しかし――

その勘が告げた。


(……今日の山は、変だ)


鳥の声が弱い。

獣の動きが少なすぎる。


木の皮には深い爪痕。

折れた枝は高さが異様だ。


(オークだな。数が多い……)


海の男でも、こういうときの“危険の匂い”には敏感だ。


カイトは槍を握り直した。


(まあ、つまみの肉は手に入りそうだし……

 少しくらい暴れるか)


冗談めかして呟いたが、

山の静けさは、返事のように深かった。


その静寂の奥に、

“誰かの息”が確かに潜んでいた。


この先でエルノアと出会うとは、

まだ思いもしなかった。


だが、

その気配だけは確かに――

“ただの狩りじゃ済まない”予感を持っていた。

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