第2話 舵が壊れた! 直接操舵の地獄
浸水の応急処置が終わり、船底の海水もほとんど掻き出された。
だが、海はまだ荒れ、船体は軋んでいる。
ほっとする暇など一秒も与えてくれない。
「舵が……舵が効きません!!」
船橋から悲鳴が飛んだ。
船長が舵輪を握り締め、全力で回す。だが、
ガラガラガラ……
情けない音を立て、舵輪は空回りするだけだった。
「舵索が切れた!!」
「このままじゃ岩礁へ流される!!」
船員たちの顔が一斉に蒼白になる。
カイトは船橋へ上がり、舵輪の付け根と滑車周りを一瞥した。
滑車の根元から完全に切断されている。補修も交換も不可能。
船長が振り返り、叫ぶ。
「なおせるのか!? なにか方法はあるのか!?」
「……舵を“直接”動かすしかありません。」
カイトが静かに言うと、周囲の空気が一瞬だけ止まった。
「直接……だと?」
「舵柄に太い棒を噛ませて、人力で押します。
波で戻されるので、四人以上。
できれば六人欲しい。」
船長は決断が早かった。
「六人!! 船尾へ急げ!! 太い棒と布を持て!!」
「「アイ・サー!!」」
船尾に着いた瞬間、波がデッキへ叩きつけてきた。
まるで海そのものが船を沈めようとしているようだ。
カイトは舵柄に手を置いて動きを確かめた。
(重い……。
ラダーの面積が無駄にデカい……)
「ここへ棒を噛ませます。
右へ押せば右舵、左なら左舵です。」
「動くのか、こんなもん……?」
「動かします。全員、全力で。」
「右舵!! 押せ!!」
「「うおおおおおっ!!」」
ギギギギギギ……ッ!!!
舵は恐ろしい抵抗で、ほんの数センチ動いただけだった。
「腰が折れる!!」
「波で戻るぞ!! 踏ん張れ!!」
まさに地獄の重さ。
荒波が容赦なく彼らの体を叩く。
そんな中、カイトは内心だけ絶叫していた。
**(危なっ!!
今ふつうに死にかけてたよね!?
どんだけー……。
この短時間で
防水操練本番 → 非常操舵訓練本番 とか……
次、防火操練イベント来るん?
……ビビった。
マジでビビった。)**
しかしその顔は、波にも風にも怯えない“海の紳士”。
渋みのあるエエ顔で、落ち着き払っていた。
「カイト殿……全然焦ってない……」
「安心してきた……」
内心は死ぬほどビビっているのに、
外ではプロ中のプロ。
そのギャップが船員たちの心に光を灯していく。
(風向き……右後ろ。
波は左前……
この角度で右舵は最悪の抵抗になる)
「船長! 一度、船尾を風へ向けてください!
風下さえ取れれば舵が軽くなります!」
「全員!! 反対側へ回れ!! 風下を取るぞ!!」
「「了解!!」」
六人が棒を持ったまま反対側へ回り込み、
再び全身で押し込む。
「せーの!!」
「「うおおおっ!!」」
ギ……ギギ……ギィ……!
舵がさっきより大きく動いた。
「動いた!!」
「船が回ってる!!」
船がゆっくりと向きを変え、
危険な浅瀬から離れていく。
船長の目に光が戻った。
「……助かった……!
お前がいなければ……!」
「船長の判断が早かったからです。
俺は、少し助言しただけですよ。」
その言葉に船員たちの胸が震えた。
「俺たちで……この船を陸まで持たせる!!」
「絶対、生きて帰る!!」
荒天のど真ん中、
その声だけが確かな希望となって響き渡った。
船員法施行規則
第三条の四 前条第一項各号に掲げる船舶における法第十四条の三第二項の非常の場合のために必要な海員に対する操練は、非常配置表に定めるところにより海員をその配置につかせるほか、次に掲げるところにより実施しなければならない。
一 防火操練 防火戸の閉鎖、通風の遮断及び消火設備の操作を行うこと。
二 救命艇等操練 救命艇等の振出し又は降下及びその附属品の確認、救命艇の内燃機関の始動及び操作並びに救命艇の進水及び操船を行い、かつ、進水装置用の照明装置を使用すること。
三 救助艇操練 救助艇の進水及び操船並びにその附属品の確認を行うこと。
四 防水操練 水密戸、弁、舷窓その他の水密を保持するために必要な閉鎖装置の操作を行うこと。
五 非常操舵だ操練 操舵だ機室からの操舵だ設備の直接の制御、船橋と操舵だ機室との連絡その他操舵だ設備の非常の場合における操舵だを行うこと。
六 密閉区画における救助操練 保護具、船内通信装置及び救助器具を使用し、並びに救急措置の指導を行うこと。
七 損傷制御操練 旅客船にあつては、前各号に掲げるところによるほか、復原性計算機の利用、損傷制御用クロス連結管の操作その他の損傷時における船舶の復原性を確保するために必要な作業を行うこと。
八 特定高速船にあつては、前各号に掲げるところによるほか、次の表に定めるところにより実施すること。
防火操練ー火災探知装置、船内通信装置及び警報装置の操作並びに旅客の避難の誘導を行うこと。
救命艇等操練ー非常照明装置及び救命艇等に附属する救命設備の操作並びに海上における生存方法の指導を行うこと。
防水操練ービルジ排水装置の操作及び旅客の避難の誘導を行うこと。
② 前項の船舶のうち、旅客船(国内各港間のみを航海する旅客船及び特定高速船を除く。)においては少なくとも毎週一回、旅客船である特定高速船においては一週間を超えない間隔で、旅客船以外の船舶である特定高速船においては一月を超えない間隔で、これら以外の船舶においては少なくとも毎月一回、海員に対する操練(膨脹式救命いかだの振出し及び降下並びにその附属品の確認、救命艇の進水及び操船、救助艇操練、非常操舵だ操練、密閉区画における救助操練並びに損傷制御操練を除く。第六項において同じ。)を実施しなければならない。
③ 海員に対する操練のうち、膨脹式救命いかだの振出し又は降下及びその附属品の確認は、少なくとも一年に一回(乙区域又は甲区域(船舶職員及び小型船舶操縦者法施行令(昭和五十八年政令第十三号)別表第一の配乗表の適用に関する通則12又は13の乙区域又は甲区域をいう。)において従業する総トン数五百トン以上の漁船(次項及び第六項において「外洋大型漁船」という。)以外の漁船においては、少なくとも二年に一回)実施しなければならない。
④ 海員に対する操練のうち、救命艇の進水及び操船は搭載する全ての救命艇について少なくとも三月に一回(国内各港間のみを航海する船舶(特定高速船及び漁船を除く。)及び外洋大型漁船以外の漁船(以下この項及び第七項並びに第三条の九第二項第二号及び第三号において「国内航海船等」という。)においては、少なくとも一年に一回)、救助艇操練及び非常操舵だ操練は少なくとも三月に一回(国内航海船等の救助艇操練にあつては、少なくとも一年に一回)、損傷制御操練は少なくとも三月に一回、それぞれ実施しなければならない。
⑤ 海員に対する操練のうち、密閉区画における救助操練は、少なくとも二月に一回実施しなければならない。
⑥ 第一項の船舶のうち、漁船以外の船舶(国内各港間のみを航海する旅客船を除く。)及び外洋大型漁船においては、発航の直前に行われた海員に対する操練に海員の四分の一以上が参加していない場合は、発航後二十四時間以内にこれを実施しなければならない。
⑦ 第一項の船舶のうち国内航海船等以外の船舶(国内各港間のみを航海する特定高速船を除く。)であつて、出港後二十四時間を超えて船内にいることが予定される旅客が乗船するものにおいては、当該旅客に対する避難のための操練を当該旅客の乗船後最初の出港の前又は当該出港の後直ちに実施しなければならない。ただし、荒天その他の事由により実施することが著しく困難である場合は、この限りでない。
⑧ 第一項の船舶以外の船舶においては、海員に対する操練のうち、第一項第五号に掲げる操練は少なくとも三月に一回、同項第六号に掲げる操練は少なくとも二月に一回、それぞれ実施しなければならない。




