第15話 銀の剣を掲げて
授爵式は翌日の午前、王宮の“陽光の間”で行われた。
壁のステンドグラスには波と航海を象った紋章が刻まれ、
天井から差し込む光が白銀の輝きを落としている。
その中央の黒大理石の円台には、
一振りの白銀の剣が静かに置かれていた。
――騎士の象徴。
その場に立っているのが、自分でも信じられない。
ムラカミ・カイト、ただの船乗り。
そんな俺が、王宮の中心で授爵式を迎えているのだから。
だが、隣に立つレオン王子が静かに微笑んだことで、
少し胸の緊張が解けた。
「胸を張ってください。
あなたは“誇るべき働き”をしたのです。」
「……わかったよ。」
◆ 儀式の開始
近衛兵の号令とともに、
玉座の間の扉が開く。
国王レガルド三世が入場すると、
室内の空気が一段と引き締まった。
「これより、騎士授与の儀を執り行う。」
司式官の声が朗々と響く。
「海難の渦中、王族および乗員を救い、
その献身により王国の未来を守った者に、
“騎士の名”を授けるものなり。」
港で一緒に働いた船員たち、
海軍士官、アーネストら学生たちも招かれていた。
◆ 国王の前へ
「ムラカミ・カイトよ。前へ。」
促され、俺はゆっくりと黒い円台へ歩み出る。
国王は白銀の剣を持ち上げ、
光を受けて青白く輝く刃をこちらへ向けた。
「名を。」
「ムラカミ・カイトと申します。
この国の海で働く、一介の船乗りでございます。」
ざわり、と周囲の空気が動く。
昨日までの俺の身分が本当に“平民”だったことを、
皆が改めて理解したのだろう。
◆ 騎士の宣誓
国王は剣を俺の右肩へとそっと置く。
「海を知り、人命を尊び、
危難にあっても退かぬ者よ。」
剣が左肩へ移る。
「その勇を称え、
我が王国はそなたに“騎士の名”を授ける。」
国王の声が静かに響いた。
「――ムラカミ・カイト。
そなたを“シルバーナイト(銀騎士)”とする!」
周囲が一斉に胸へ拳を当て、敬礼した。
「銀騎士殿に敬礼!」
アーネストが涙ぐんでいるのが見えた。
◆ 騎士章の授与
国王は小箱を開け、
白銀の胸章を取り出して俺の掌へ置いた。
「これが、シルバーナイトの証だ。」
「……ありがたく頂戴いたします。」
胸章は掌にずしりと重く、
“責任”そのもののように感じた。
◆ レオンの言葉
儀式が終わるや否や、
レオンが近づき、嬉しそうに笑う。
「カイト。
本当に、おめでとうございます。」
「……俺みたいな人間が騎士ってのは、
なんだか落ち着かん。」
「いいえ。」
レオンは真剣に言う。
「あなたは、最初から騎士にふさわしい心を持っていました。」
その言葉に、胸が熱くなる。
◆ 国王の告げる“役目”
国王がゆっくりと歩み寄ってきた。
「ムラカミ・カイト。」
「はい。」
「そなたの持つ知恵と経験は、
この国の海を劇的に変える力を持つ。
近く改めて、“ある役目”を任せたい。」
その声は重いが、信頼に満ちていた。
「その役目は――
王国の未来を切り開くものとなる。」
俺は静かに頭を下げた。
「……承知しました。
与えられた道を、全力で歩みます。」
◆ 式の終わりに
レオンがふっと笑った。
「これで、あなたは正式に王国の一員。
次は――士官学校へ行きましょう。」
「……ああ。」
胸章を握る手が、わずかに震えていた。
ムラカミ・カイト。
銀騎士としての人生が、静かに始まった。




