第14話 玉座の間
王宮の奥へと続く長い回廊は、静けさに満ちていた。
白大理石の床に、俺とレオンの足音だけが反響する。
壁には海王を象った彫刻や、歴代の王の肖像画が並ぶ。
波と帆船の意匠が多いのが、この国が“海の国”であることを雄弁に語っていた。
やがて、巨大な銀の扉の前で立ち止まる。
「これより玉座の間です。」
近衛兵の声は低く静かだった。
レオンは振り返り、俺に小さく頷く。
「緊張しなくて構いません。
あなたは、胸を張っていい人です。」
「そうかね。」
「ええ。あなたは私の命の恩人ですから。」
レオンの背中を見ながら、扉が開く。
◆ 玉座の間
光が差し込み、広大な空間が現れる。
赤い絨毯はまっすぐ玉座へ伸び、
白銀の紋章が掲げられた巨大な旗が風もないのに揺れて見えた。
玉座に座る男――
アーク=ザラスト王国国王、レガルド三世。
鋭さと温かさを併せ持つその眼差しは、
一国を背負う者の重さを感じさせた。
「レオン。
無事に戻ったこと、まずはそれを喜ぼう。」
「はい、父上。」
国王の視線が、俺に向く。
「そなたが……息子を救ったという男か。」
その眼差しは、充血も驚きもなく、ただ深い海のように静かだった。
◆ 正式な名乗り
俺は一歩前に進み、胸に手を当てる。
「ムラカミ・カイトと申します。
海で働く、しがない船乗りです。」
玉座の間が静かになる。
“名乗り”を期待していた者たちは、それを聞いて小さく頷いた。
◆ 国王の問い
「ムラカミ・カイト。
なぜ命がけで王子を救った?」
その問いには含みも試しもなく、
ただ“理由を知りたい”という純粋さがあった。
俺は迷わず答える。
「理由は一つです。
沈む船を見て、救える命があると判断したからです。
たとえそこに誰がいようと……俺は飛び込みます。」
国王の表情が、わずかに緩む。
「海の男の言葉だ。」
◆ レオンの証言
「父上、この方の判断は本物でした。
風の変化、波の周期、潮流の癖……
すべて瞬時に理解し、私たち全員を救い出してくださいました。」
「ほう。」
国王は、俺の右手を一度見る。
航海と作業で鍛えられた、傷だらけの手。
「年季の入った手だ。
ただの船乗りではあるまい。」
「ただ……少しだけ経験が多いだけですよ。」
「謙遜も行きすぎれば嘘になる。」
国王はゆっくりと立ち上がり、階段を降りて俺の前へ来る。
◆ 国王の評価
「ムラカミ・カイト。
そなたがいなければ、レオンはここに立っておらぬ。
その事実は、王国の未来が一つ失われるのと等しい。」
玉座の間の者たちが息を呑む。
「よって――恩義を示す。」
国王は近衛兵へ命じる。
「授爵の準備を整えよ。」
周囲がざわめく。
「授爵……!?」
「王子救助の功績か……」
「異例中の異例だ……!」
◆ 国王の問いかけ
「ムラカミ・カイトよ。」
国王の声が、玉座の間に響く。
「そなたの知恵と技量を、この国の海のために振るう覚悟はあるか?」
俺はレオンの横顔を見た。
昨日、あの海で命を預けてくれた少年。
そして、この世界。
……救える命があるなら、応えない理由はない。
「――はい。
必要とされるなら、全力を尽くします。」
国王は深く頷く。
「良い返事だ。」
「そなたには“シルバーナイト(銀騎士)”の爵位を授ける。」
玉座の間に緊張が走る。
レオンは、俺の方を見て微笑んだ。
「これで、あなたは正式に――
王国が認めた“海の守り手”です。」
国王の声が続く。
「後日改めて、そなたに任せたい“役目”を伝える。
国を変える、大きな役目だ。」
その言葉は重く、しかし不思議なほど温かかった。
こうして俺――
ムラカミ・カイトは、異世界で騎士としての第一歩を踏み出した。




