第13話 王宮からの召喚状
港の騒ぎがひと段落した頃、
俺たちのもとへ、重厚な足音が近づいてきた。
鎧をまとった近衛兵が二人。
その後ろには、王宮の使いだとひと目でわかる、
赤い外套の文官が立っていた。
「海難救助にかかわった船長殿。
そして――第三王子レオン殿下。」
文官は深く礼をしたあと、厳かな声で告げた。
「王宮よりの正式な召喚状をお預かりしております。
国王陛下が、直ちにお二人を招きたいとのこと。」
アーネストが息をのむ。
「国王陛下……!」
港の空気が一瞬で張り詰める。
周囲の兵士たちも姿勢を正し、喧騒が静まり返った。
文官は俺の方へ向き直り、白い封蝋の封筒を差し出した。
「あなたに対し、王宮より“恩人としての謁見”が定められました。」
「俺に……?」
つい聞き返してしまう。
ただの船乗りが国王に呼ばれるなど、まずあり得ない。
いや、この世界だって同じだろう。
だが文官は眉一つ動かさず、はっきり言った。
「あなたは、王国にとって代えがたい功績を挙げられた。
王子殿下の命を救うことは、すなわち王国の未来を救うこと。
その働きに対して、陛下が感謝の意を示される。」
レオンが一歩、俺の隣に進む。
「もちろん、私も同行する。
あなたの働きを、正しく父上に伝える義務がある。」
その瞳は真剣そのものだ。
嘘や飾りのない、まっすぐな少年の目。
「……そうか。わかったよ。行こう。」
俺は封筒を受け取る。
封蝋には、あの白銀の紋章――王家の象徴が刻まれていた。
◆ 王宮へ向かう馬車の中
夜の王都は、静かで美しかった。
石畳の街路に灯火が連なり、影が揺れている。
馬車の中でレオンが口を開く。
「……正直に言えば、私は自分が恥ずかしい。
今日、私は判断が遅れた。
それが原因で仲間を危険に晒した。」
「判断が遅れたんじゃない。
材料が足りなかっただけだ。」
「材料……?」
「ああ。
風向き、波の周期、潮の色――
その“意味”を知らなければ判断なんてできない。」
レオンは俺の言葉に、ゆっくりと頷いた。
「あなたの言葉は……胸に刺さる。
私は、もっと学びたい。
いつか――あなたのように海を読む人間になりたい。」
真剣すぎるその表情に、俺は少しだけ照れた。
「まあ、教えるのは嫌いじゃない。
ただ、俺の真似をするより……自分の海を探しな。」
「……自分の、海。」
レオンはその言葉を噛みしめるように、小さく繰り返した。
◆ 王宮門前
王宮の巨大な門が開く。
城壁に埋め込まれた魔灯が青白く輝き、
白い大理石の階段がまっすぐ奥へ伸びていた。
「第三王子レオン殿下、ご帰還!」
「お戻りをお待ちしておりました!」
門兵たちが一斉に直立する。
俺のような一般人は、通常なら絶対に入れない場所だ。
「では――行こう。」
レオンが先に歩き出す。
俺は深く息を吸い、王宮の内部へと足を踏み入れた。
そして、このあとすぐに俺は知ることになる。
国王との謁見が、
俺の未来を大きく変える“第一歩”になるということを。




