ハーモニクス・クロニクル
ふと思いついた物語をなんとなく煮詰めてできたような物語です
素人なので優しい目で見ていただけると嬉しいです
第一章 音を失くしたピアニスト
焦げた石畳の上に、カイトは倒れていた。
耳鳴りが耳をつんざき、肺は熱風に焼かれるように痛む。周囲の空気は、破れた譜面の切れ端が舞うかのようにぐしゃぐしゃだ。
黒衣の男がゆっくり歩み寄る。
「終わりだな。初級奏術しか使えない小僧が、戦場に出てくるとは」
男の指先から、音符の形をした刃が浮かぶ。
――音を裂く音。
世界が歪み、すべての音が黒く溶けた。
カイトは震える手でピアノの鍵盤を模した魔導具「キー・リング」を握る。
けれど、音は出ない。信じられない。怖い。
男が腕を振る。
「アジタート・カッター!!」
鋭い音の刃が一直線に迫るその瞬間。
「トランクィッロ!!」
低く、澄んだ声が響き、世界が音を失った。
刃は霧のように消え、風も止む。
目を上げると、黒いフードを深く被った人物が立っていた。手には指揮棒。
ひと振りごとに、見えない五線譜が宙に走り、光の音符が爆ぜる。
「音を、信じろ。」
その声が心に触れた瞬間、視界が白く染まった。
第二章 夢と現実の間で
「……ん」
まぶしい朝の光。カイトはゆっくり目を開けた。
天井、見慣れた部屋。夢だったのか。
額の汗を拭い、息を整える。胸の鼓動がまだ速い。――“音を信じろ”。
「カイトー! 朝だよー!」
ドアの向こうで弾む声。幼なじみのミナだ。
首からスティックを下げたまま、満面の笑みを浮かべる。
「今日は〈初奏術テスト〉だよ! 寝坊して伝説の落ちこぼれになっちゃうよ?」
「……落ちこぼれって言うな」
「だって、あの事件のあと、音出してないじゃん」
カイトは返事をせず、うつむく。
〈カデンツァ・アカデミア〉音を“力”に変える奏術師を育てる名門学院。
弦、鍵、打――それぞれの楽器を極めた者たちが集う場所。
しかし、カイトには音が出せない。
一年前、サイレンの夜で家族を失い、同時に奏術の音を失ったのだ。
それでも、彼は学院に入学した。
理由はただひとつ、あの夢の声の主に、もう一度会いたいから。
第三章 初奏術テスト
放課後、実技ホール。観客席には教師たちが座る。
カイトの手がわずかに震える。ピアノを展開し、心を整える。
「受験番号17番、カイト・レイン。課題、“トリル・バースト”。」
鍵盤に指を落とす。――沈黙。音が出ない。
会場がざわつく。カイトは唇を噛みしめる。
「奏式、第一楽章――トリル・バースト!!」
鍵盤を叩いた瞬間、かすかな共鳴音が走る。しかしすぐに消えた。
「テンポ・プリモッ!!」
舞台袖からミナの声。太鼓が鳴り、振動が鍵盤に伝わる。
――カン、カン、カン。
ピアノの中で微かに響く共鳴。それがカイトの心を貫く。
「……行けっ!!」
再び鍵盤を叩くと、光の音符が弾けた。ホール全体に音の嵐が吹き抜ける。
“音が、戻った……?”
その時、天井が砕け、黒い霧が降り注ぐ。
「〈サイレン同盟〉か……!」
黒衣の奏術師が舞い降りる。
「奏式、第1楽章トリルバースト!!」
光の旋律が弾け、敵を弾き飛ばす。音の力が体中を駆け巡った
――“音を、信じろ。”
再び、あの声が聞こえた。
どうだったでしょうか?
もし気に入ってくだされば嬉しいです
人気であれば続編も作っていきたいと思いますのでよろしくお願いします