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ハーモニクス・クロニクル

作者:ツケムケ
カイトは、街角の広場で倒れていた。体の周囲に焦げた石畳。空気は焼け焦げたように熱い。呼吸をするだけで肺が痛む。
目の前には、黒い衣をまとった敵国の奏術師が、ゆっくりと歩み寄ってくる。「終わりだな。初級魔奏しか使えない子どもが、戦場に出てくるなんて」
彼の手から飛び出したのは、フォルテッシモの弦斬弦楽器から放たれた音の刃が空気を切り裂く。耳鳴りとともに世界が歪む。
カイトは震える手で、手元のヴィオラを握りしめる。だが、音が出ない。心が、もう音を信じられない。
──その時だった。
「カルマンド」低く、しかし澄んだ声が響いた。
次の瞬間、世界が無音になった。敵の弦斬は、目の前で霧のように消え、風すら止まった。
視線を上げると、そこに立っていたのは、黒いフードを深くかぶった人物。月明かりに照らされ、手には指揮棒。彼が棒をひと振りするたび、宙に散る見えないピアノ音符が敵を弾き飛ばす。
「アラルガンド!」振動とともに敵の動きが鈍り、次々と敵を薙ぎ倒していく
「音を、信じろ。」
その声が胸に届いた瞬間
カイトははっと目を覚した。見慣れた天井。自分の部屋のベッドの上だった。心臓が早鐘を打つ。手には、昨日の練習で出しっぱなしにしていたヴィオラの端を握った手。まだ、夢の余韻が耳の奥に残っている。
音を、信じろ
その言葉だけが、いつまでも頭から離れなかった。
あの夢が、ただの幻想だったとしても、何かが胸に火を灯した。
カイトは考えた。自分は、ただの学生で、初歩的な音楽魔法しか扱えない。それでも、夢の中でフードの人物が見せてくれた力──音を自在に操る姿──を思い出すと、どうしても試してみたくてたまらなかった。
「……俺も、音楽魔法を、本気で学びたい」
そう決意したカイトは、翌日、近くの音楽学校の資料を取り寄せ、入学手続きを進めることを決めた。そこから彼の、ヴィオラを使った音楽魔法の学びの日々が始まったのである。
ハーモニクス・クロニクル
2025/10/08 12:46
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