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幕間:休憩の語らい

(先ほどの白熱したスタジオとは打って変わり、静かで落ち着いた空間が広がる。壁にはゆっくりと星々が瞬き、まるで宇宙船のラウンジのようだ。中央の滑らかな円卓を囲むように、4人の対談者が座っている。彼らが席に着くと、それぞれの前に好みの飲み物と軽食がすっと現れる。ベンサムの前には温かい紅茶と数枚のビスケット。カントの前にはブラックコーヒーとシンプルな焼き菓子。マキャヴェッリの前には深い赤色のワインとチーズ、オリーブ。リンカーンの前にはグラスに入った水とクラッカー。)


リンカーン:(グラスの水を一口飲み、ふう、と息をついて)「いやはや…皆さん、先ほどは実に…熱のこもった議論でしたな。」


マキャヴェッリ:(ワイングラスをゆっくりと回しながら、面白そうに)「ふん、なかなか楽しませてもらったぞ。特にカント先生の、あの現実離れした理想論には、ある意味、感服した。(皮肉交じりの笑み)」


カント:(コーヒーカップを手に取り、眉をひそめながらも)「マキャヴェッリ殿、あなたの現実に寄り添いすぎる考え方には、同意しかねる点が多いですが…その揺るぎない姿勢は見事でしたな。しかし、道徳を軽視する態度は、やはり看過できません。」


ベンサム:(ビスケットを一枚手に取り)「カント先生の論理展開は、相変わらず見事なものでした。もっとも、その前提となる『義務』とやらの根拠が不明瞭な点は、いささか残念ですが。(冷静に分析するように)リンカーン大統領の、あの人間味あふれる苦悩の表明も、多くの人々の共感を呼ぶものでしょうな。もっとも、それが合理的な判断を曇らせる可能性も否定できませんが。」


リンカーン:(苦笑しながら)「ベンサムさん、あなたのその明晰さには、いつも驚かされますよ。しかし、人間は計算だけでは生きていけませんからな。」


マキャヴェッリ:「(リンカーンを見て)大統領、あなたは少々、人が良すぎるのではないかな?その誠実さが、いつか足元をすくわれることにならねばよいが。」


リンカーン:「ご忠告、痛み入ります。しかし、人を信じる心なくして、より良い国を築くことはできないと、私は信じておりますので。(穏やかに微笑む)」


(しばし、それぞれの飲み物を口にしながら、先ほどの議論の余韻に浸るような沈黙が流れる)


カント:(ふと、リンカーンを見て)「ところでリンカーン大統領、あなたは毎朝、非常に早く起きて政務にあたっておられたとか。規則正しい生活は、やはり重要ですな。」


リンカーン:「おお、ご存知でしたか。ええ、早朝の静かな時間に物事を考えるのが常でした。カント先生も、ケーニヒスベルクでは毎日決まった時間に散歩をなさっていたと伺っております。街の人々は、先生の散歩を見て時計を合わせたとか。」


カント:(少し照れたように)「ふむ、それは少々大げさな話ですが…規則正しい生活は、思考の明晰さを保つためには不可欠だと考えております。日々の習慣が、精神の安定をもたらすのです。」


ベンサム:(二人の会話を聞きながら)「規則正しい生活、ですか。それ自体が目的となっては本末転倒ですが、効率的に最大の成果を生むための手段として、習慣化は有効でしょうな。(自身に言い聞かせるように)私も、執筆や研究の時間を厳密に定めることで、多くの仕事をこなしてきました。社会全体の幸福を増進させるためには、まず個々人が生産性を高めることが重要ですから。」


マキャヴェッリ:(ベンサムを見て、ワインを一口)「ベンサム氏、あなたも私も、既存の仕組みを変えようとしてきた点では似ているかもしれんな。(面白そうに)もっとも、目指すものが『最大多数の幸福』か、『君主の権力』かという点で、全く違うが。」


ベンサム:「確かに、変革への意志という点では共通するかもしれません。しかし、マキャヴェッリ殿、あなたの言う権力のための変革は、しばしば民衆の犠牲の上に成り立つ。それでは真の進歩とは言えません。私の目指す改革は、あくまで人々の幸福を増やすためのものです。」


マキャヴェッリ:「幸福、幸福か…(鼻で笑う)民衆など、少しばかりパンを与え、見世物でも見せておけば満足するものだ。それよりも、強い指導者が秩序を保つことの方が、よほど彼らの『幸福』に繋がると思うがね。」


リンカーン:(マキャヴェッリの発言に、穏やかながらも反論するように)「いや、マキャヴェッリさん。人々は、パンだけでは生きられません。自由や尊厳、そして自分たちの代表を選ぶ権利…そういったものへの渇望が、人間を人間たらしめているのだと、私は思います。」


カント:(リンカーンの言葉に頷き)「まさしく。人間の尊厳こそが、あらゆる価値の根源です。」


(再び、それぞれの思想の違いが垣間見える会話となるが、先ほどのような険悪さはなく、互いの違いを認識しつつも、どこか相手への敬意も感じられる、落ち着いた雰囲気が流れている)


ベンサム:(紅茶を飲み干し)「…さて、そろそろ休憩も終わりですかな。次の議論も、有意義なものにしたいものですな。」


(他の3人も頷き、再び始まるであろう議論に向けて、静かに心を整えるのだった)

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