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波乱万丈北海道旅

 大学二年の夏休み、仲の良い友達四人で旅行に行くことになった。沖縄にしようか京都にしようかといろいろ迷い、最終的に北海道に決まった。私の、「涼しくて食べ物の美味しいところにしよう」という一言が決め手になったのだ。

 灼熱の太陽が照りつける中、私たちは飛び立った。北海道まで飛行機で約二時間。高所恐怖症の私は当然飛行機が苦手で、汗だくの手でシートの手すりを掴みながら「神様、いるのならどうか無事に北海道に着かせてください。これまでの悪行を懺悔しますから……」と祈り続けていた。

 私の祈りのおかげだろうか、無事に新千歳空港に到着した。空港の扉を抜けると、その快適な気温に驚いた。真夏の8月にも関わらず、太陽の日差しが憎くない。「な、北海道にしてよかっただろ?」と得意げに言う私を、三人は「そうだねえ!ナイスアイデアだったね!」と称賛してくれた。良いヤツらである。

 時刻はちょうど12時。とりあえずお昼ご飯を食べようという話になり、空港内のレストラン街に向かった。

 

 ラーメン、海鮮丼、豚丼、スープカレー、ジンギスカン……北海道はなんて魅力的なところなのか。「どうしよう、全部食べたい」と私が言うと、「そうしよう、全部食べよう」などと皆が賛同し、「まずラーメンを食べたあと海鮮丼のお店に行こう、それから豚丼を食べて……」と幸せな計画を立てた。

 全員で味噌ラーメンを食べ、全員そこそこお腹いっぱいなのに「よし次は海鮮丼だ!」と海鮮丼屋に向かった。「ウニ丼にしようかな、それともイクラ丼かな」などと海鮮丼の話ばかりしていた。

 店の外に並ぶ食品サンプルを眺める皆の目は本当にキラキラと輝いていた。そこそこお腹いっぱいなのに、私もワクワクした。店内に入り席につくや否や、「俺はイクラ丼」「マグロ丼にしよう」などと皆口々に注文した。

 「北海道に来たら、絶対にイクラ丼を食べようって決めてたんだよ俺」と友達の坂本が言うので、私たちは「初日にして願いが叶ったねェ、よかったよかった」と喜んだ。「お腹が空いている時の方が美味しいんじゃないか」なんて誰も言わない。溢れんばかりにイクラの乗った丼がやってくると、「宝石みたいだね」と全員ニコニコしていた。そして各々が注文した丼を食べて「おいしいおいしい」と言い合った。

 食事が終わり、お腹がはち切れそうだったが、全員幸せそうな顔をしていた。さすがに豚丼は今度にしようという話になったが、空港を出てエアポートに乗り、札幌に着くまで私たちはずっとニコニコしながら食べ物の話をしていた。


 午後3時ごろ、札幌駅に到着した。ドアが開いた瞬間、ムワッとした空気が身体中を包み込んだ。

 「……暑くない?」誰ともなくそう呟く。

 確かに、暑い。千歳とは違い、札幌の日差しはジリジリと肌を刺すように感じる。後から知ったのだが、真夏の北海道で涼しいのは知床や稚内のような北部だけで、札幌では日中30℃を超えることはザラにあるらしい。

 ダラダラと汗を垂れ流しながらホテルに向かう。先ほどまでの幸せな空気は一転し、言葉少なになる私たち。ぱつぱつに膨れたお腹のせいで身動きも取りづらい。

 そんなこんなで、ようやくホテルに辿り着きチェックインを済ませた。二人一部屋で予約しており、私は坂本と同部屋であった。部屋に入ると私はすぐにエアコンの電源を入れて裸になり、全身に冷たい空気を浴びた。坂本はといえば、部屋に入るなりトイレに籠ってウンコをしていた。やっぱりお腹いっぱいだったのだ。

 さて、しばらく快適な室内で過ごしていた私たちであるが、さすがに旅行に来たのにこれではもったいないということで、街に繰り出すことにした。午後4時過ぎ、相変わらずの暑さであるが、「暑い北海道も粋だよね」などと言い合いつつ街を練り歩く。旅行ってのは観光地を巡るのもいいけれど、友達と歩いているだけでも楽しいんだなァ、と旅本来のあり方をそのとき私は思い出した。


 日が傾き始めた午後6時ごろ、人間とは不思議なもので、昼にどれだけ食べたとしても夕方にはお腹が空いてくる。なんとなくご飯屋を探しながら歩いていると、こじんまりした、お世辞にも「美味しい料理を出しそうだな」とは言い難い風貌の店が目に付いた。さすがにここはないよなあ、と思っていると、坂本が「ここで夕食を食べよう」と言い出した。他三人は「ここはないでしょ〜」と難色を示していたのだが、一度火のついた坂本はもう止められない。「いいか、そりゃあ美味い飯屋なんてこの街にはいくらでもあるだろうよ。でもな、そんな店はこれから社会人になって北海道に来たときにいくらでも行けるんだよ。学生の今、友達同士でしか行けないのはこんな店じゃないか」などと最もらしく聞こえるがよく考えると意味のわからない論法に懐柔された私たちは、反論も許されぬままその店の暖簾をくぐった。

 店内は外観ほど悪い様子ではなかったが、それでもまあ、良くも悪くも「普通」の店であった。メニューにも大衆居酒屋のようなものが並んでいたが、その中に「豚丼」の文字を見つけた私は迷わず豚丼を注文した。それに加えて、皆で分けて食べようと鮭のちゃんちゃん焼きを注文した。

 ガンジーは「人間は生きるために食べるべきであって、味覚を楽しむために食べるべきではない」と言ったらしいが、あの時の私はまさにガンジーの境地であった。舌が裏返ったのかと思うほど薄味の豚丼と、それとは逆に世界の海水を煮詰めたのかと思うほど塩辛い鮭のちゃんちゃん焼きを、空腹を満たすためだけに胃袋に放り込んだ。私以外はちゃんちゃん焼きにほとんど箸をつけなかったので一人で完食しようとしたのだが、そんなことをするとなんらかの病気になってしまうと感じ、申し訳ないが残して店を後にした。

 さすがの坂本も反省しているだろうと思いきや、「いやァ、当たりの店だったなあ!一生忘れない思い出だな!」と謎のポジティブを発揮していた。


 当たりだった。日付が変わるころ、私のお腹が「きゅるるるるるん」と鳴き始め、同時に雑巾絞りをされたような痛みが走った。トイレに駆け込むと、どさどさ大騒ぎ。出しては流し、出しては流しのエンドレスである。一旦治ったかと思えば、また次の波がやってくるので迂闊にトイレを離れられない。最終的には透明の液体が尻から流れ出てくる始末。こんな攻防がなんと翌朝まで続いたのである。

 トイレを行き来する私を見た坂本はさすがに心配して「病院に行こう」と提案してくれたのだが、せっかくの旅行の雰囲気を壊したくなかった私は「大丈夫、腹以外は問題ないから」と一晩で痩せ細った体で気丈に振る舞った。事実、本当にお腹以外はなんの問題もなかった。吐き気など一切ないし、なんなら食欲はしっかりあるくらいだ。ただ、少しでも気と肛門を緩めると危険なのである。こんな爆弾を抱えながらの観光は不可能だと自己判断した私は、三人に「本当に大丈夫だから三人で観光に行ってくれ、俺は腹が治り次第合流するから」と告げた。

 「そんなことはできない」「俺たちはそんな薄情じゃない」と口々に彼らは言ったが、「お前らが残ったってどうせ俺はずっとウンコをしているだけだぞ」と言うと、「何かあったらすぐにホテルの人に言えよ」と保護者のような言葉を残して渋々ホテルを後にした。いいヤツらなのだ。


 結局、私の腹の調子が戻り、ようやく気と肛門を緩めることができるようになったのはその日の夜だった。三人は「白い恋人」やら六花亭のお菓子やらをたくさんお土産に買ってきてくれた。一緒に旅行に来た友達からお土産をもらうとはこれまた変な話だと思いながら、萎れた体に糖分を補充した。


 最終日、すっかり回復した私は前日のことが嘘だったかのように食べまくった。念の為海鮮は避けたが、ザンギやらジンギスカンやらを思う存分満喫した。そして空港でお土産を山ほど買い、飛行機に搭乗した。

 とんでもない旅行だったなあと思いながら窓の外を眺めたり、飛行機が乱気流に巻き込まれて全身汗だくになったりしているうちに着陸した。

 もうしばらく北海道はいいかな……と私は心の中で呟いた。

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