もふもふ子犬の恩返し
私はカーラ・モルガン、一応この国の王女だ。それもお父さまの唯一人の子供なのだ。
でも、この国モルガン王国は小国でいつも大国の間に立って苦労しているのだ。
最近は大国の一つと関係の深い宰相が力を持ってきて、我が王族は蔑ろにされがちだ。
それにピリピリして騎士団長が最近はやたらうるさくなってきた。出来たら外には出ないで欲しいと。
でも、月に一度の孤児院の慰問は絶対に外したくないのだ。
私が行くと子どもたちがとても喜んてくれるのだ。
その日も子どもたちはとても喜んでくれて、私は子どもたちにご本を読んであげたり、一緒にクッキーを作ったり、鬼ごっこをしたりと楽しんだのだ。
その帰り道だ。
目の前にいきなり何十人もの破落戸が現れたのだ。
「貴様ら、何者だ!」
騎士が誰何してくれた。
「そちらの姫さんに用があってな。ちょっと付き合ってもらおうと思って」
破落戸達がゲスな笑いをしてくれたんだけど。
「貴様ら、こちらのお方がこの国の王女殿下だと知っての狼藉か」
「威勢の良い騎士だな。王女って言ってもこの国の宰相様の方が偉いんだろう」
「そうだ。そうだ。なんでも国王も宰相様にはへいこらしているって聞いたぜ」
そう言うとドッと破落戸共が笑ったのだ。
「何だと、聞いているとつけあがりおって」
「ほう、剣でも抜くっていうのかい」
破落戸共はますます調子に乗ってはやしてきたのだ。
往来でこの様に囃してくるなど今まで無かったことだ。
ということはこいつらも宰相の息がかかっているのだろう。
私は身の危険を感じた。
宰相の後妻にならないかと宰相からは迫られていたのだ。
私はいくらなんでも、あんな年寄のデブと一緒になる気は無かった。それなら隣国の3男を婿に迎えたほうがまだましだ。宰相は必死に反対しているけれど……
宰相の言葉にうんと言わないからって、ついに実力行使に出てきたみたいだ。
笑っていた破落戸共が騎士たちに襲いかかってきた。
騎士二人はあっさりと破落戸にやられてしまった。
「姫様!」
私の侍女のサーヤが小刀片手に私を護るように前に出たんだけど、絶対に無理だ。
「サーヤ、止めて」
「何をおっしゃっているのです。宰相の所に連れて行かれたら姫様が宰相と無理やり結婚させられてしまいます。それだけは絶対に防がねば」
サーヤはそう言うが、小刀が震えている。
「ふん、姉ちゃん、粋がっている割には持っているナイフが震えているぜ」
「近寄ったら切りつけるわよ」
「ほう、やってもらおうじゃないか」
破落戸が近寄ってきたのだ。
そして、男がサーヤのナイフを持つ手に手を伸ばそうとしたのだ。
サーヤはその手を弾こうとして、ナイフが男の手にかすったのだ。
「痛っ! このあま、よくもやりやがったな!」
「サーヤ!」
男がサーヤに襲いかかろうとした。
私は恐怖のあまり何も出来なかった。
そんな時だ。私の横を白い塊が駆け抜けていったのだ。
「ギャッ」
そして、サーヤに襲いかかろうとした男を剣で弾き飛ばしてくれた。
弾き飛ばされてた男は破落戸共を数人巻き込んで飛んでいったのだ。
サーヤの前に立ち塞がってくれたその白い異国の衣装を纏った男はとても格好良かった。
私にとっての白い騎士様だった。
「貴様、何奴だ!」
破落戸が叫んでいた。
「ふんっ、単なる旅の者だ」
白い騎士様は言ってくれた。後ろから見ても白い騎士様はとても凛々しかった。
「旅の者がなんで邪魔しやがる」
「ふん、男どもが寄って集っていたいけなお姫様に悪さをしようというのが気に食わん。素直に立ち去るなら見逃してやるが、このまま続けるならば成敗いたす」
白い騎士様はそう言うと剣を抜き放ったのだ。
白刃が太陽の光を反射して輝く。
「何だと、この格好つけやろうが」
「野郎ども、構わねえからやってしまえ」
そう言うと男たちは一斉に白い騎士様に襲いかかったのだ。
しかし、白い騎士様は剣の腕が立つみたいで、並み居る男たちを次々に倒していった。
私達はただただ見とれていたのだ。
そんな時だ。
「きゃっ」
私はいきなり後ろから男に羽交い締めにされていた。
「動くな。動くとお姫様を傷つけるぞ」
男はナイフを私の首筋につけて白い騎士様に向かって叫んでいた。
白い騎士様は舌打ちした。
失敗した。白い騎士様に迷惑を掛ける。
私はなんとかしようとしたが、男はナイフを私の首筋にきつく押し付けて来たのだ。
ナイフは私の首筋に食い込んだ。私は何も出来なかった。
「さっさと剣を捨てろ。さもないと本当に……」
男はそれ以上話せなかった。
白い騎士様が私の目の前からその瞬間に消えていたのだ。
「ギャッ」
そして、私の後ろから羽交い締めにしていた男は次の瞬間吹っ飛んでいた。
私は何が起こったか、判らなかった。
騎士様が倒してくれたのは判った。
そして、私は安心した拍子にフラっと体が揺れた。張り詰めていた気が緩んだのだ。
倒れるっと思った瞬間、私は白い騎士様に抱きとめられたのだ。
私はその騎士様の腕にしがみついていた。
「大丈夫か?」
眼の前にドアップの白い騎士様の凛々しい顔があって私は驚いた。
思わず視線を外す。私は真っ赤になっていた。
「だ、大丈夫です」
「そうか。なら良い」
見上げた白い騎士様もこころなしか顔を赤くしているように見えた。
「姫様」
遠くから応援の騎士たちが駆けてくる音がした。
「では、私はこれで」
白い騎士様が去っていこうとした。
「えっ、お助け頂いたのですから少しお待ち下さい」
私が慌てて言うと、
「いや、私は通りかかっただけの者だ」
男は慌てて去っていこうとした。
「お待ち下さい。せめて名前だけでも」
「マクシム」
白い騎士様はそう言われると路地の中に入っていったのだ。
私はぼうっと見送ることしか出来なかった。
「あの騎士様」
サーヤが路地に入って追いかけようとして呆然としていた。
「どうしたのサーヤ?」
私が問うと、
「いえ、あの何処にも見えなくて」
「そうなの?」
私は慌てて路地に入ると、本当だ。誰もいない。
でも、私は視界の端に白いものを見たのだ。
「えっ」
慌ててそちらに向かうと物陰に隠れている子犬を見かけたのだ。
「あれ、ころちゃん、ころちゃんじゃないの!」
私は慌ててその子犬を抱き上げたのだ。
10日前に城で飼っていた子犬がいなくなったのだ。
そして、見つかったその白い子犬は確かにころちゃんだった。
「ころちゃん、一体今まで何処に行っていたの? 探していたんだからね」
私はその犬を抱き締めながら、白い騎士様は何処に行かれたのだろうかと思いを馳せていた。
***************マクシム視点*********************
俺はマクシム、この国から少し離れた所にある獣人王国の王子だ。
俺は政敵の義兄に国を追放されたのだ。義兄は追放するだけでなくて追手を差し向けた来た。
俺は追手は何とか撃退したが、力尽きた俺は川に流されてしまったのだ。
気付いたら俺はどこかのお屋敷の中にいた。
「サーヤ、子犬が気付いたわ」
「お姫様。それはようございました」
俺はその国の姫君に助けられたみたいだった。
獣人は危険が迫ったりすると獣に変身する。
俺等王族は普通はワニとか、ライオンとか肉食獣に変身するのが多いのだが、俺は子犬だった。
犬は犬でもせめて成獣ならば良かったのに、子犬ってどういう事だ!
俺は憤ったが、こればかりはどうしようもなかった。
小さいうちはまだ可愛いと言って皆喜んでくれたが、大人になるとそうも言っていられなかった。
変身する度にみんなバカにしてくれるのだ。
「いくらマクシム様が有能でも、変身したお姿が可愛い子犬というのはどんなものでしょうな」
煩い家臣など露骨に俺をバカにしてくれるのだ。
獣化した姿が可愛い子犬なので、俺はせめて剣技だけでもと必死に訓練した。
その努力が実って剣技ではこの国有数の実力者となったのだ。
でも、義兄に嵌められて獣人国を追い出された俺はしばらくこの姫君の傍で過ごすことにしたのだ。
「ころちゃん。可愛い」
俺は毎日見目麗しい姫様に抱き締められて癒やされていたのだ。
でも、この姫様も俺みたいに微妙な立場にいたのだ。
周りの家臣たちの話を聞くと、腹黒宰相が姫様を後妻にして、この国を乗っ取ろうとしているみたいだった。
俺は助けてくれた恩人の姫様には幸せになってもらいたかった。
俺は姫様を助けるために宰相の屋敷に潜入した。
調べると宰相は姫様が孤児院に慰問に行く帰りに破落戸を雇って姫様を屋敷に拉致する計画だと知ったのだ。
俺はそれを防ぐことにした。
破落戸共の言動から今日実行すると聞いて、待ち構えていたのだ。
破落戸共を倒すのは倒せたのだが、最後がいけなかった。
倒れそうになった姫様を抱き締めてしまったのだ。
そして、俺は女性に触れるとその恥辱心からか獣人化してしまうのだ。
これを直そうとしていろいろやってみたが、上手くいかなかったのだ。
今日もまずいと慌てて路地に入った瞬間に子犬に戻ってしまったのだ。
そして、姫様から逃げようとして捕まってしまった。
ちょっとまってくれ。姫様は俺を抱き締めてくれるんだけど、こんな事をずっとされると俺は人間に戻れないじゃないか。この前姫様から逃げ出した時は人間に戻るのに3日くらいかかったのだ。
どうしよう?
俺は逃げようとして、そのまま、姫様に抱き締められたままお城に連れられたのだった。
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「ころちゃん、もう絶対に逃げていったりしたら駄目よ」
私はお風呂の中でころちゃんを抱き締めていたのだ。
ころちゃんは何故か恥ずかしがっているように見えた。
でも、犬が恥ずかしがるなんて絶対に変だ。
「ころちゃん。白い騎士様は何処に行ったのかしら」
私はころちゃんを胸に抱いて白い騎士様の事を思い出していたのだ。
「また会えるかしら?」
そう言ってぎゅっところちゃんを抱き締めたのだ。
ころちゃんを抱いているうちに、私はまた必ず白い騎士様と出会えると思えてきたのだ。
ころちゃんは何故か心持ち赤くなったような気がしたけれど、絶対に気のせいよね。
私はそう思いながらころちゃんを胸の中に抱き締めたのだった。