72話
苦戦している。
最初は調子よくバッタバッタとサイクロプスを倒していたシャルルとドラだったが、目に見えて倒すペースが落ちて来た。
目を開けているのが難しいくらいに光輝いていたシャルルの斬撃が普通に見えるようになるし、ドラの光弾も明らかに小さくなっている。
明らかに飛ばし過ぎたのだ。
青や緑などの弱いサイクロプスを倒すのに気合を入れ過ぎていて、森の奥で戦況を見ている赤いオークのいる所にはまだ到達していない。
まるでマラソン大会で最初のスタートの時にカメラに映りたくて猛ダッシュするやつ状態だ。
それでも6匹を倒して残りは赤サイクロプスを入れて5匹。今までただ見ていただけの俺が文句を言ってはいけないと思うものの、それでもやはりペース配分考えろよ、と思ってしまう。
雄叫びが聞こえた。
それは一番後ろにいて戦況を見守っているだけだった赤いサイクロプス。その声を聞いた途端に緑色や黄色のサイクロプス達は下がって道を開けた。
もしかしたら赤のサイクロプスは「俺がやる」とでも言ったのかもしれない。
「シャルル!ドラ!気を付けろ。こいつは今までのやつとはレベルが違うぞ」
「分かってるわよ!」
そう言った瞬間、足元が沈んだ。
「!」
くるぶしの辺りまで地面が足を飲み込んでいて、少しも動かすことが出来ない状態になった。それと同時に赤いサイクロプスがシャルルに向けて突進している。
マズい。
攻撃力は素晴らしいのだがシャルルの骨格はまだまだ子供。攻撃を喰らった時には脆さがある。それは道場でさんざん彼女の立ち合いを見て知っている。
よりにもよってサイクロプスはシャルルを選んだ。
「足が抜けない!」
悲鳴に似た声。
やはりシャルルも同じ状況だった。こうなれば何としてでも助けに向かわなくてはならない。シャルルが攻撃を防ぐ手段としての最大の長所はステップワーク。もっとも重要な足がいま封じられている。
「いま行く!」
叫びつつ魔臓から魔力を大量に放出させる。これによって筋力とは比べもにならないくらいの力を発揮することが出来る。シャルルやドラと違っていざという時のために魔力を温存しておいてよかった。
そのおかげもあり、思ったよりも簡単に足を引き抜くことが出来た。
「ンボーーーー!」
響きわたる勝利を確信したような雄たけび。
させない。
シャルルの元へ走る。
赤いサイクロプスも走る。
その先にはいまだに足が抜けていないシャルル。
間に合わない。
そう思ったその時、光弾がサイクロプスの横顔を打ち抜いた。
「レイ行けーーー!!」
ドラだった。
「任せとけ!」
こっちに向かって転がってきたサイクロプス。
「ドラァアーーー!!」
レイの踵がその脇腹に突き刺さり、赤い巨体を吹き飛ばした。
「ンゴーーーー!」
サイクロプスは崖地へとぶつかり、音と落石と砂煙が発生した。普通の人間だったら間違いなく死んでいるだろうが、あいつは普通の人間とはわけが違う。
足に感じた感触は巨大なタイヤを蹴った時のような感触で、こっちの足に鈍い痛みを感じるほどの頑丈さだった。
「早く足を抜くんだ!」
駆け寄ってシャルルに言う。
「私だってそうしたいけど出来ないのよ!」
シャルルの体から魔力が溢れ出ているのが分かる。言われなくてもシャルルは出来る限りの魔力を使って脱出を試みていた。
「手伝ってやるから!」
ひとりでは抜けなくてもふたりの力を使えば行けるはずだ、そう考え足を掴んで引き上げると、大根のようにあっさりと足が抜けた。
「もう一本!」
反対の足も抜けた。
「ありがとう」
「まだまだ油断できないぞ、多分さっきの蹴りはあいつは全然効いてない」
「わかった!」
瓦礫の中から赤いオークが一つの目を血ばらせながら姿を現した。その堂々とした立ち姿を見ればレイの言う通りまだまだ元気なのは間違いなかった。
「あいつ多分、土魔法を使うんだわ」
シャルルが言ったその言葉で今何が起きたのかが理解できた。
魔法を使えるのは人間だけではない。一部の魔物も魔法を扱うことが出来る。そしてその場合は当然ながら魔物の危険度は跳ね上がる。
「クッソ!いまのでほとんど魔力を使い切っちゃったよ。こんなことなら遺しておけばよかった」
ドラが悔しそうな顔をしながら空中を旋回している。
「大丈夫だ、今のだけでもかなり助かった。次は俺たちが引き付けてドラで止めを刺すんだ」
「俺が?」
「そうだ。さっきの足を沈ませる土魔法、あれは空を飛んでいるドラには効かない。となれば俺たちの中で一番自由に動けるのはドラだ」
「けどもうドラドラ波はほとんど撃てないよ」
どうやらあの光弾に名前を付けていたらしい。
「だったらあいつの喉元に噛みついてやれ。それで動きが止まったところで俺が援護するから」
「わかったよ!」
その声と同時に赤いサイクロプスは唸り声を上げながら突進してきた。その視線の先にはレイがいた。




