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70話

 


「前世!?異世界転生!?」


 黒髪天才剣術少女シャルルは洞窟の中で声を張り上げた。


「そうなんだよ」


「あんた今とんでもないこと言ってるわよ!?」


「そうだよな」


「何よその気のない返事は」


 そう言われても事実だからしょうがない。シャルルは初めて聞いたから驚くのは分かるが、俺にとってはこっちの世界に来てもう6年も立っているわけだから、当たり前のことというか、いまさら新鮮さは無い。


「幼馴染と一緒にカラオケに行ったんだけど、そこでストーカーの野郎どもに刺されちゃって、それで気が付いたら白い空間にいたんだよ。そこで女神さまが出てきて………」


「ちょっと何言ってるのか全然わかんない。ひとつづつゆっくり話しなさいよ」


「えーと、だからその、カラオケっていうのは歌を歌う、えーと遊びみたいなもので、いや、まあそれは関係ないから置いといて、ストーカーっていうのは、えーと、それもまあ関係ないから置いといて、とにかく刺されて死んで………」


「ぷしゃうい!」


 シャルルが豪快なくしゃみをした。


「寒い」


 そうだろうか?むしろ温かくなってきた位だ。ドラの背中で直接風を浴びていたときは寒かったがここは風も無いしーーーそう思っていたら、くしゃみの連発が始まって合計7連発だった。


「うーーー」


 両鼻から鼻水が出ている。


「風邪ひいてるじゃないかシャルル!」


「風邪なんか引いてない」


 鼻の穴が塞がっているせいで声が変だ。そんな意地を張ったところで誰がどう見ても明らかだ。


「ティッシュは?」


 鼻水が口の所まで伸びてきている。


「そんなの持ってきてない」


「ええ?」


 自分のポケットの中を探してみるが見つからない。そうだ、最近は服を頻繁に買い替えていたせいで、前の服に入れたままだったかもしれない。


「あった!」


 ズボンのポケットの奥の方に塊になっているハンカチを見つけた。入れっぱなして洗濯してしまったものだろう。


 広げて渡すと遠慮なしに鼻をかんだ。


「はい」


 何で返してくるんだろう。


「………」


 無言で見つめられている。


 汚いからいらないなんて言うのはさすがに可愛そうだからしょうがない。きっと優しさで返してくれようとしているんだろうと諦めて受け取る。


 生々しい重みがある。


「ほら、これを着て今日はもう帰ろう」


 上着を脱いでシャルルに手渡す。


「魔物、魔物狩りをする」


「それは無理だよ、帰ろう?」


 シャルルは首を横に振っている。


「ほらこれを着て今日は帰ろう。魔物狩りだったら元気になってからやればいいじゃない」


 無理やり肩に上着をかけてやって洞窟の出口へ向かって歩いた。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




 夜空に向けて笛を吹く。


 シャルルは体を縮めて寒そうにしている。最初は羽織るだけだった貸してあげた上着をしっかり着込んでいる。温度を失った顔が白くなっているし鼻水も垂れている。


 しばらくしたら空からドラが戻って来た。さっきの笛は魔道具で遠くまで音を響かせることが出来るので、これをドラとの合図として使うことに決めていた。


 最初だからちゃんとドラまで音が届いてくれているのか不安だったのだけど、ドラの姿が見えて安心した。


「今日はあんまり丁度いい魔物がいない」


 地面に降り立ったドラが言った。


「それどころじゃないんだよ」


「ん?」


「シャルルが風邪を引いちゃってさ、今すぐに家に戻してあげたいんだ。今日はもうこれで終わりにしよう」


「風邪!?やっぱり人間って弱いな、俺なんか一回そんなのになったこと無いぞ。やっぱりドラゴンが最強だな」


「ぷしゃうい!」


 返事みたいにくしゃみをしたシャルル。


「帰るのはいいけど俺の背中で鼻水垂らすなよ?」


「ぷしゃうい!」


「うわ!さっきまでは元気だったのにどうしてこんなことになってるんだよ。あの洞窟の中で何かあったのか?」


「そうじゃないよ。乗せてもらってすごいありがたいんだけど、空を飛ぶっていうのは僕たちにとってはすごく寒いんだよ」


「なんだそういうことか」


「だから帰りは出来るだけゆっくり飛んでくれないかな。風が強いと寒くなってもっと体調が悪くなっちゃうからね」


「わかったよ、しょうがないな」


「ぷしゃうい!」


 少し前までは魔物狩りをすると言ってきかなかったシャルルだけど、ここに来てくしゃみしかしていない。ようやく自分でももう無理だと分かってくれたのかな。



 こうして初めての夜空飛行は終わりとなった。


 ゆっくり帰りながら見る星空はやはり美しくて、この光景を心に刻み込もうと思いながら帰った。


 次の日のシャルルは完璧なまでに風邪を引いていて、道場と学校を欠席することなった。


 レイがお見舞いに行くと「あんただけ稽古して強くなるのはズルい」

 だとか「すぐに魔物狩りに行きたい」と元気なことを言っていたが、顔が不自然なくらいに赤かったので、治るまでにはあと数日はかかるだろうと思った。


 レイのポケットにはシャルルが使ったハンカチと、もやしの神「ラウツ」から貰った3つの木の実があった。ハンカチはすぐに捨てたが、木の実をどうするかは悩んだ。


 一方地球ではシャルルの父が長年悩まされている腰の痛みが緩和されるという小さな奇跡が起こっていた。





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