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7話 ~鬼婆襲来~

 


 数多の有力な剣士を輩出した名門「辰巳流道場」。


 これから稽古が始まるという朝のキリッとした空気の中、杖をついた老婆がひとり歩いて来る。


「久しぶりだねぇ」


 脇目もふらず、真っ直ぐやって来た鬼婆ことアダチ・ド・ゴールが立ち止まって言った。


「お久しぶりです」


 その正面に立つレイフェリックスが苦い顔をしながら返す。


 道場中の人間が二人の様子を伺っている。



 なんなの?


 レイの背筋に寒気が走り、嫌な記憶が蘇る。


 初めて道場にやって来た日、中華包丁を持って追いかけられたあの記憶、忘れられるわけがない。トラウマすぎて夢に何度も出て来る。


「いやいや、何もそんなに体を固くしなくてもいいじゃないか。今日はあんたにいい話を持って来たんだからね」


 そんな事件を引き起こした張本人が笑いながら言う。


 何がいい話だ腹が立つ。自分が何をしたのか忘れたのかと言ってやりたい。


「どうしたのアダチ、レイに何か用があってきたの?」


 隣にいたシャルルが聞く。


 アダチ・ド・ゴールは年寄りあつかいされることを嫌う。だから孫であるシャルルに対しても自分の事は名前で呼ぶようにと、幼い時から言い聞かせているのだ。


「そうだよ。実は前々から思っていたことなんだけどねぇ、そこの小僧にこの前の詫びをしたいと思って今日はやって来たんだよ」


 詫び?


「あんたがこの道場に初めてやって来た日の事だよ。あの時はずいぶん怖い思いをさせてしまったからねぇ」


 あの時のお詫びか、なるほどなるほど。あの時の事を反省して今日はそのための謝罪のためにやって来たというわけか。見た目は怖いが意外と常識的な人じゃないかーーー。


 って俺は騙されないぞ。


 なんだか雰囲気が怪しい。妙に優し気に話しかけてきてるけど、そんな奴じゃないはずだ。子供からお年玉を回収しようとしている母親みたいだ。


 お詫び?


 あれから結構な日数が経っているのに、なぜ今頃になってそんなことを言いだすのだろう。本当に謝るつもりなら相手のことを「小僧」なんて言う呼び方をするだろうか?


 怪しい。


 何か企んでいる気がする。


 正直言ってあの日以来、このアダチという人間にはあまり関わらない方が良いと思っている。この道場も道場に通う人たちも好きだが、このアダチのことは好きになれそうもない。


「お気持ちだけで十分です」


 だから断ってやった。


 少しドキドキしたが、なんだかスッキリした気分だ。どうだ、自分が言うことに誰もが従うと思ったら大間違いだぞ。


 いまさら菓子折り程度のものをを貰ったところでありがたくもない。小遣いは親からもらっているから欲しいなら自分で買える。


「なるほどねぇ………」


 あっさりと断られた鬼婆ことアダチは、少し眉毛を動かしはしたが、引き下がる様子は無かった。


「けれどそれじゃあ私の気が済まないんだよ。私は詫びを渡すと決めているんだから何が何でも受け取ってもらうよ」


 すごい目力。


 なんて強情な鬼婆だ。こっちがいらないと言っているんだから、さっさと引き下がってくれよ。


「聞くところによればあんたは随分と魔武器とか魔道具に関心があるそうじゃないか」


 魔武器?


「顔色が変わったね」


 鬼婆がニヤリと笑う。なんだか弱みを見せてしまったような気がするけど、そりゃあ興味はあるさ。


 ここは外食に出かけたらプテラノドンに連行されるような世界だ。道場に通って稽古はしているが、他の道場生に比べたらまともに戦えるようなレベルではない。


 だから特別な力を持つ魔武器や魔道具が必要なんだ。


 存在を知ってから居ても立っても居られなくなって両親に相談してみたがすぐに駄目だと言われた。


 魔武器は普通の武器よりも危険だから、大人になるまで持たせることは出来ないのだそうだ。


 最初は不満だったが、考えてみれば当たり前かもしれない。


 もし自分が親だったら、5歳の子供に包丁やナイフを与えようと思うだろうか。魔武器が普通の武器よりも危険となれば、なおさらそうだ。


 前世の感覚で言えば鉄砲を与えるようなものか?それなら反対されるのも当たり前だ。


 それなら魔道具はと聞く。


 もしも防犯ベルやスタンガン的なものを持っていれば、プテラノドンに連れ去られた時でも助かるかもしれない。武器よりは安全なはずだ。生きて帰れるかは絶望的な気はするけれど。


 両親はそれにも賛成はしなかったが、魔武器の時よりは少しだけ拒否感が弱かった。魔道具であっても子供に持たせることは良くないらしい。


 それは魔武器や魔道具には悪魔の魂が宿っているから。


 魔力と引き換えに大きな力をもたらしてくれるが、良いことばかりではないという。


 悪魔の魂は人格に影響を与える。


 魔武器を持った途端に、おとなしかった性格の人が急に乱暴になったり、酒やたばこを飲むようになったり、家族を捨てて旅に出たり、あるいは自ら命を絶ったり。


 大人であっても精神力の弱い人間は悪魔に侵されるため、危険だというのがこの世界の常識。だから父も母も反対しているのだ。


 精神力の弱い人間。


 それはまさに自分の事を言っているような言葉だと思った。前世では筋トレが続いた試しがない。夜更かしも我慢できなかったし、ご飯の前にポテチを一袋食べきったこともある。


 それなのに悪魔の魂に対抗できるか?


 答えはNo。


 だから魔武器に関しては一旦諦めておこうと決めていた。



 それをそのまま伝える。


「そんなものは心を強く持っていれば何も問題はないさ。私は三つのころから魔武器を持っているけど、一度たりとも怖い思いをしたことは無いよ」


 鬼婆が言う。


 思ったことをすぐ口に出すほど馬鹿ではないので言わないが「それはあなたの精神力が化物並みだからでしょう」と思う。


 断るしかない。


 両親が危険だと言っている。しかもそれはちゃんと根拠があって自分の事を思って言ってくれている言葉だ。だったらその通りにするのがいいだろう。


 きっと鬼婆は、自分が大丈夫だったから、俺に魔武器を持たせても大丈夫だと思っているのだろう。


 そういう考えは良くない。


 昔の人は自分が出来たのだから、他の人もできると思い込む。だけど人間はひとりひとり違うのだ。そういうことをちゃんと考えて、お互いに優しさを持って、より素晴らしい世界を作っていかなければいけない。


 だから断る。


 なんか怪しいし。


「まさか私の詫びが受け取れないって言うんじゃないだろうね?」


 怖っ!


 目を見開くな。


「どうなんだい!?」


 だからいらないんだよ。


「私がこれだけ言ってるのにまさか断るつもりじゃないだろうね!?」


「ですから………」


「ああん!?」


「ありがたく頂戴させて頂きます」


 圧力に押されて思わず言ってしまった。


 まあ、まあまあまあ………。


 魔武器が危険なことは間違いないが、魔道具に関してはそこまででもないだろう。


 それならできるだけ無害そうな魔道具を貰うことにする。貰っておいて魔力を通さないで置いておこう。そうすれば使わないのとあまり変わらないだろう。


 実際少し興味はあるし。


 というか魔道具を貰うよりも断る方が危険そうだ。


「そうかい、そうかい、最初から素直にそう言っていればいいんだよ」


 鬼婆は笑った。


 お詫びって圧力かけて無理矢理受け取らせるものじゃないと思うんだけど。


 笑ってる顔も怖いし。




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