65話
静かな水面が立つ大きな湖を前にしてレイ・フェリックスは驚いた。
「魔物狩りって何言ってるの?」
「だってせっかく魔物がいるんだから、私たちがどれだけ強くなっているのか試してみたいじゃないの。レイだってそうでしょ?」
そんなことは全く無いんですけど。
「もっと体が成長してからの方が良いと思う。魔物と戦うにしては僕たちは子供すぎるよ」
いくら毎日道場で稽古しているとはいっても、所詮は小学生だ。命をかけて魔物と戦うには早すぎる。
「体だったら十分に大きくなってるじゃないの。レイはもう私のお父さんと同じくらいの身長はあるでしょ?」
確かにそれはそうだ。
体を動かした日は鶏肉を茹でたやつを多めに食べてたんぱく質を摂取するようにしているせいか、自分でも感じるくらい毎日体が大きくなっている気がする。
丁度いいと思っていた服もすぐに小さくなるので、服を頻繁に買い替えるはめになっている。服屋の人は嬉しそうだけど。
「そうは言っても無茶だよ」
「そんなに怖いならレイはここで待ってればいいじゃないか。俺とシャルルは行くぜ」
ドラが言う。
「確かにそれがいいわね。この湖の周りなら魔物が出ないんだから、ここにいなさいよ」
そうじゃなくててシャルルのこともドラのことも止めたいんだけど、この感じではとても止まりそうにない。
「しょうがないから僕も行くよ」
「やっぱりね!あんたは絶対について来るって言うと思ってたのよ」
シャルルが得意げな顔をしているけど、それってどういうこと?
「私が魔物と戦って強くなるのが嫌なんでしょ?」
そんな気持ちは無いんだけど。
「レイってば最近、私のことをライバルだと思ってるからね」
そんな気持ちは無いんだけど。
「だけど道場とは違って私にはこれがあるから絶対に負けないわ」
そう言って得意げに愛刀を掲げる。
三日月宗近。
「本当に格好いいよな………」
「そうでしょそうでしょ、もっと近くで見てもいいのよ」
シャルルが得意げに鞘から抜く。
反り返った刀身には白銀色をした三日月の模様が浮かんでいる。冷たさと恐ろしさを感じる。大人になるまで魔武器は使わないと決めているがそれでもやはり間近で見ると欲しくなる。
武器としても相当すごいのだろうが、何時間でも見ていられるような芸術品のような魅力もある。
「ちょうだい」
「何馬鹿なこと言ってんのよ」
即座につっこまれた。
まあさすがに冗談だ。国の宝とも言われるこれをくれるだなんて思っていない。欲しいけど。
「今日はいよいよこの刀を使って本気の戦いができるのよね。いままでは稽古でしか使ったことが無かったから楽しみだわ」
そうか。
シャルルがやる気満々なのはそのせいか。俺の持っている杖の魔道具は布で相手を拘束することがメインなので、普段から使うことが出来るがシャルルの三日月宗近はそうはいかない。
強力な魔武器であるがゆえにいざというとき以外は使えないのだ。巻き藁を切ることくらいがせいぜいで、それが不満だったに違いない。
手元にあるからこそ、この素晴らしい武器を思う存分使ってみたいという感情が湧き上がってくるはず。
そして今がその絶好のチャンスというわけだ。
「戦う相手はちゃんと考えてくれよ?」
「わかってるって!ちゃんと良い相手を探してやるから任せておけよ」
ドラが自信満々に答える。
よかった。
さすがに今の俺たちが強い魔物と戦うのは無理だと分かってくれていたか。普段のドラは森を飛び回って魔物と戦いまくっているようなので、慣れているだろうが、俺は街の外に出ることすら初めてだ。
「シャルルは魔物と戦ったことはあるのか?」
「ない」
やっぱりか。
「それなのに随分と自信満々だな、不安とかないのか?」
「気合と気迫で相手を圧倒する。それだけ考えていればいいのよ」
自信満々な顔で言う。
さすがはあの道場で育っただけはあって思考も攻撃的だ。世の中は気合と気迫でどうにもならないこともあると思うんだけどな。
「もしかして本当に行かないつもりなの?」
「行くよ。行くけど初めてだから不安なんだ」
さすがにシャルルが心配だから、何かあったら助けないといけない。
「なんだ、やっぱりそうじゃない。それなら最初から弱気なことなんか言わなきゃいいのよ」
言いながらどこか安心しているように見える。
「それじゃあそろそろ行くか!準備はどうだ?」
「私は大丈夫よ」
「僕も」
本当はただ空を飛びたいだけだったんだけどな。
「それじゃあ行くぞ!」
ドラに乗り再び異世界の夜の空を飛びたった。




