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63話

 


 しばらくの間、星と月が綺麗な夜を楽しんだストームドラゴンのドラとレイ・フェリックスは広大な敷地の中にあるシャルル・ド・ゴールの家へと向かった。


「なんでこんなに大きい家が必要なんだろう。使ってない部屋とか絶対沢山あるだろうな」


 独り言をいうレイを背に乗せたままドラは夜空を滑空し3階の左にある大きな窓を鼻でノックした。


「ちょっとなんか遅くない?」


 窓を開けたシャルルは開口一番不機嫌そうに言った。


「人目につかない様に日が暮れた夜8時くらいに来るって聞いてたんだけど、もう9時よ?」


「まあまあまあ………8時も9時もそんなに変わらないよ」


「変わるでしょ!」


「まあまあまあ………それより準備はできているの?」


 レイが話題を変える。二人で空を飛んでいるのが楽しすぎてシャルルの事を忘れていたとは言えない。


「もちろんできてるわ。前の日からちゃんと枕元に準備しておいたんだから」


 そう言って部屋の中に戻っていく。準備したその荷物を取りに行ったんだろう。


 シャルルの部屋の中が見える。


 これぞ女の子の部屋という感じで薄い布が垂れ下がったベッドがあって、城とかピンクのものが多い。それにしてもぬいぐるみが沢山あるな。道場でのシャルルとはだいぶイメージが違う。


「ちょっと!何見てんのよ!」


 戻って来たシャルルが叫んだ。


「大声を出さないでよ、誰かに見つかったら大変なんだから」


「だって!」


「静かにしてってば」


 もう一度注意する。


 そう。このドラに乗って夜空を駆け巡ることは大人たちには内緒だ。夜は魔物が活発になる時間帯だから子供が外に出ること自体禁止されている。


 普通なら自分から危険な場所にわざわざ立ち入ったりはしない性分なのだけど、今回だけは特別だ。


 ドラゴンの背に乗って大空を飛びまわることは子供の頃からの夢だったのだ。


 街の人たちにドラが見つからない為には夜に飛ぶしかないので、夢を叶えるためにはこれしか方法がないからしょうがないのだ。


「だってあんたが勝手に私の部屋を見るから………」


 ようやく声を落としてくれたが、まだブツブツ言っている。だってしょうがないじゃないかそれは。


「え?」


 シャルルの手にしているものを見て驚いた。


「それも持って行くの?」


「もちろん!」


 はっきりと言い切ったシャルルが掲げたのは白い鞘に収まった日本刀。


「三日月は私の愛刀だもの」


 世界に名だたる名刀であり魔武器。


 三日月宗近みかづきむねちか


 国の宝と言われるほどの武器。マニアなら近くで見ることが出来ただけで歓喜する。鞘を抜くとその刀身には三日月模様が浮かぶ大変美しい刀だ。


「ドラに乗って空を飛ぶだけなのに、それはじゃ必要なくない?」


「レイだって杖を持ってきてるじゃない」


「それはそうなんだけど」


 このリンカーンはとても大人しくて言うことを聞いてくれるから何の心配も無いのだけど、それは近くにあるだけで背筋が寒くなる。


「武器はあった方が良いぞ。お前らが何もなしで魔物と戦うのは危ないだろ?」


「魔物と戦うってなんだよ」


 ドラに尋ねる。


「手ごろな魔物がいたら降りて行って戦わせてくれって、シャルルから頼まれているんだよ」


「なにそれ、聞いてないんだけど」


「そりゃあそうでしょ言ってないから」


 シャルルが平然と答える。


「なんでそんなことするんだよ」


「だって私一度も魔物と戦ったことが無いんだもの。どんな感じなのか前から気になっていたのよ。今日はちょうどいい機会だと思って」


「ちょうど良くないよ」


「なんで?」


「だって僕たちは子供だから体が全然できてない。魔物を相手にするにはか大人になってしっかり準備が整ってからにした方が良いよ」


「レイってば本当に憶病ね」


「そういう問題じゃないよ」


「準備なら毎日してるわ。ちゃんと道場で稽古をしてるじゃない」


「道場での稽古と実戦は違うよ」


 稽古は稽古、殺し合いとは違う。


「なにそれ」


 不機嫌そうに言った。


「おいちょっと二人とも、こんな所で言い合ってたら誰かに見つかるぜ?」


「わかった。ドラ、とりあえず乗せてちょうだい」


「受け止めるからジャンプしてこっちに来い」


「それじゃあ行くわよ?」


「ああ」


 少しの振動はあったが飛び乗って来たシャルルを、ドラはしっかりと受け止めた。


「ちょっとしんぱいだったけど全然大丈夫そうね」


「当たり前だろ?ドラゴンだぜ俺は」


「やっぱりドラゴンってすごいのね。太腿くらいの太さしかないのにそれでも私たちのことを乗せて飛べるんだから」


「もちろん!俺は偉大なドラゴンなんだ、これくらいなんてことないんだよ!」


 ドラが得意げに言う。


 本を見ればドラゴンと言うのはプライドの高い魔物だと言われているが、まさにその通りでドラは自分がドラゴンであることをかなり誇りに思っているのが普段から感じられる。


 まるで調子に乗っている小学生みたいでかわいいと思う。そんなことを言ってしまったら怒られるので言わないけど、これも浄化肉のおかげだろう。


 お前のおかげで夢がかなった。


 さあこれから本格的に異世界の空の旅と行こうじゃないか。


「それじゃあ行くぜ?」


「うん」


「頼むよドラ」


 軽く手でポンポンとドラの体を叩いた事を合図にして、星と月が綺麗な夜空へと滑らかに浮かび上がった。






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