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62話

 


 窓をノックする音によってレイ・フェリックスは目を覚ました。


「ん………」


 目を擦りながらベッドから降りて、濃紫色の夜空へ向けて窓を開けた。


「レイ!お前の夢がついに叶う時が来たぞ」


 溌溂とした声で緑色のドラゴンが声をあげた。


「ああ………嬉しいよドラ。ドラゴンに乗って空を飛ぶっていう俺の夢を、お前が叶えてくれるんだな?」


「そうだ、そのために来たんだ!」


「ありがとう」


 寝ぐせが付いたまま、感極まった様子でドラゴンの顔を撫でる。


「いまから少しだけ準備するから待っててくれ」


「準備なんかいいからすぐに行こうぜ。俺は待つのが嫌いなんだ」


「大丈夫だよ。昨日から準備はしておいたから時間はそんなにかからないよ」


 そう言いながら窓から離れ、ベッドの脇に置いてあった靴を履き始める。


「ドラ」と呼んだ緑色をした細長いドラゴンは、レイの耳を噛みちぎったストームドラゴンの幼体。


 浄化肉という特別な処理をした魔物の肉を与え続けた結果、魔道具技師のハラトロ・モスとレイにすっかり馴れて、たまに顔を出してくれるようになった。


 最少は片言だったが、日が経つにつれてどんどん普通に会話が出来るようになっていった。本を読めばドラゴンは賢いとよく書いてあるが、それも納得できる。


 最初は近づくだけで噛みつこうとしてきたが、今では顔を撫でることも許されるくらいの間柄になっている。


 名前も付けた。


 ストームドラゴンというのは呼びづらいので、仮の名前として「ドラ」と付けたのだが、今の所ほかに良い候補が無いのでそのままになっている。



 レイにはどうしても叶えたい夢があって、ドラに何度も頼んでいた。


 それはドラゴンの背に乗って空を飛ぶこと。


 前世で子供の頃からアニメや漫画をよく読んでいたレイにとっては、本当に夢に見たことのあるくらい夢だ。


 最初は「人間を乗せるなんて嫌だ」と言い張っていたドラだったが、何度も会って浄化肉をあげているうちに段々と考えてくれるようになった。


 本にはドラゴンはプライドが高い生き物だと書いてあるのが多いが、まさにその通りだと思う。誰に教わったわけでもないだろうに人間を乗せることが嫌なのだ。


 けれど何度も頼んでいるうちにようやくOKしてくれた。せっかくなら一番きれいな時がいいということで、星と月が綺麗な夜の日に乗せてくれることを許してくれた。


 今日がその夜。


 普段は寝つきは悪くない方なのだが、いよいよ今夜だと思ったら、なかなか寝付けなくて、ついさっき寝ついたばかりの様な気がする。


 けれどもう眠気は一瞬で吹っ飛んでいた。


「準備できたよ!」


 靴とゴーグルとリュックを身に付け、杖を持ったレイが言った。


「なんだ、本当にあっという間だったな。それじゃあ俺の背中に乗れよ!」


 ドラの声に武者震いが起きる。


 いよいよだ。


「頼んだよ?」


「任せとけって!」


 窓枠に足をかけて、夜空へ向かって飛びだした2階の部屋。その着地点にはストームドラゴンのドラがいた。


 足の間にドラの体が通るように着地する。細身の体だが、安定感はしっかりとあって飛び乗ってもほとんど動じなかった。少し心配だったがこれなら飛べそう。


 最初に出会った時には蛇と間違われるくらいに体が小さかったのだけど、毎日成長しているんじゃないかと思うくらいの早さで、ドラは体を大きくしていった。


「いくぜ?」


「ああ!」


 ドラゴンに掴まったままで星空を滑らかに上昇して行く。


「しっかり掴まってろよ!」


「任せとけ」


 月へ向けて斜めに加速した。


 笑顔のゴーグルの中の目からは涙が溢れている。ついにレイはドラゴンの背に乗って空を飛ぶという夢を果たした。


 星と月が綺麗な夜。


 異世界から来た少年とドラゴンは、じゃれ合うようにして濃紫色をした空を自由気ままに飛び続けた。




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