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6話 ~黒髪天才剣術少女が思うあいつ~

 

 シャルル・ド・ゴールは思う。


 レイ・フェリックスってやつはものすごく変な奴だ。前から変な奴だとは思っていたけど最近はもっと変な奴になっている。


 前は素振りばかりしていたけど、最近は足運びばかりやっている。


 基礎の稽古をするのは初心者だから当たり前なのだけど、それにしたって足運びなんて剣も握らない一番地味な稽古だ。


 レイの指導をしているマーリンに話を聞いてみたら、レイの方から打ち合いよりも基礎をやらせて欲しいと言ってきたそうだ。


 それで素振りの方はまあまあ良くなってきたから、いまは足運びの稽古をしているというわけらしい。


 やっぱりあいつはおかしい。


 剣術と言えば打ち合いだ。足運びなんかをやって何がおもしろいのか。あいつは私にも足運びのことを聞いてきたけど「そんなのは勘で動くんだ」と言ってやったら不満そうに首をひねっていた。


 あいつはきっと私に戦いを挑んでくると思っていた。


 だって今まで道場に来た男の子は絶対にそう言っていたから。私よりも少しだけ体が大きいから、簡単に勝てると思っているのだろうけど、剣術はそんなに甘くない。ちょっと当たっただけで泣いて道場に来なくなる。いつもそうだった。


 それなのにあいつはそんなこと全く言ってこなかった。むしろにマーリンに言われてしぶしぶ私と試合をしに来るだけだった。


 それにも腹が立つ。


 まともな練習もしていないやつが勝負を挑んでくるのにも腹が立つが、嫌々来られるのにも腹が立つ。


 もちろん何回戦っても私が全部勝つ。あいつは手も足も出なくて負けているのに、当たり前みたいな顔をして、勝った私のことを褒めてくる。


 意味が分からない。


 悔しくないのかと聞いてみたら「悔しい」と全然悔しくなさそうに言うので腹が立った。私だったら大人相手に負けても泣くほど悔しいのに。


 それなのにあいつはあっさりとマーリンの所に戻って基礎をやる。普通ならもう一度勝負してくれと言ってくるだろう。なんて根性無しだ。


 勝負というのは最後は気迫。気持ちの強いほうが生き残る。これがこの道場の教えで、私もそう思う。それなのにあいつにはそれが全くない。


 しかも平気で練習を休む。ついに稽古が嫌になって道場を辞めるのだろうと思っていたら、次の日には普通に来て稽古をしている。


 なんで休むのか聞いたら「休むことも練習」と言われた。そんなわけがない。毎日稽古をしないと絶対に強くはなれない。それを信じて私は強くなってきた。


 腹が立って、「休むことなんか練習じゃない」と言ってやったら、「僕はそう思うから」とあっさり言われた。


 思ってもみなかった答えが返ってきたので、なんて言い返したら良いのか分からなくて言葉が出てこなかった。


 その隙にあいつは違う所に歩いて行ってしまったので、結局言い返せなかった。


 あいつは弟子ではなく月謝を払って来ているので、来るも来ないも自由だ。それは分かっているのだけど、とにかく腹が立つ。



 しかもあいつは練習が終わった後にいつも道場でなにか食べている。気になって見てみると、鶏肉を茹でただけの美味しそうじゃないやつだった。お母さんに頼んで家から持ってきたらしい。


 わざわざここで食べなくても、家に帰ってから食べればいいじゃないかと言ってやったら「食べることも練習」と言っていた。


 意味が分からない。


 腹が立って、「食べることなんか練習じゃない」と言ってやったら「僕はそう思うから」とあっさり言われた。道場で物を食べてはいけないわけではないから、良いと言えば良いんだけど、なんか腹が立つ。


 さらに腹の立つことに、あいつは最近体がガッシリしてきたような気がする。稽古をしていてもフラフラしなくなってきた。


 これじゃあ、あいつの言っていることが正しくて、私の言っていることが間違っているみたいになる。腹が立つ。


 マーリンや他の道場生に聞いてみても、あんなに基礎をやりたがる子供は今まで見たことが無いと言っている。


 けれど強くなるために色々と考えてやることは、とても良いことだと感心しているし、剣術もだんだん強くなってきているとも言っている。


 大人たちはみんなレイのことを褒めている。


 腹が立つ。


 みんなはあいつに優しすぎるんだ。私が思うにはあいつは今まで道場に来た誰よりも怒られていない。


 あいつは怒られないようにふるまうのが上手なんだ。挨拶も返事もちゃんとしているし、指摘されたところをちゃんと直そうとしている。


 それだけじゃなくて、あいつは持って来たクッキーを、よくみんなにお裾分けしているんだ。


 それは絶対にズルい。


 だってレイがくれるクッキーはものすごくおいしいんだ。甘いものが苦手な人も、持って帰ると家族が喜んでくれると言って嬉しそうにしている。


 そんないいものを貰ってしまったら、怒るに怒れなくなるじゃないか。あいつはそうやって上手いこと怒られないようにしているんだ。


 もっと食べたくなってどこで買ったのかと聞いたらお母さんの手作りだと言っていた。


 いつも大きな魔銃をポケットに入れてレイの送り迎えをしている優しそうなお母さん。


 昔パティシエをしていたんだけど、朝起きるのが辛すぎて結婚と同時に辞めたのだという。それじゃあ買えないじゃないか、あいつから貰うしかないじゃないか。


 悔しい。


 悔しいけど美味しい。


 それくらい美味しいクッキーがあるのにあいつはなんで茹でた鶏肉を食べるんだろう。それが全然分からない。


 とにかくあいつは私を怒らせる名人なんだ。



 そういえば今日はあいつが道場を休む日だ。


 なんだか道場がスカスカな気がする。


 いれば腹が立つ奴だけども、最近はいないと少しだけ寂しく感じるような気がしている。ちょっと前まではいないのが普通だったのに。


 あいつには絶対にそんなことは言ってやらないけども。


 毎日来いよレイ・フェリックス。



 休むことも練習、なんて意味が分からない。




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