59話
「それじゃあまた何かあったら、俺に依頼してくれよな」
「わかった」
王立ワシントン学園の地下にある魔道具技師のハラトロ・モスの研究所までやって来たレイとカネナリとラーテルは別れを告げる。
時間にすればそれほど長いものでは無かったけど、ストームドラゴンの根切交渉から始まって強盗との戦いと、濃い内容だったのですでに仲のいい友達のような関係になっている。
「じゃあな!」
「それじゃあね」
カネナリとラーテルが去っていく。少し寂しいがまた会おうと思えば会えるのだ。特にカネナリは道場で毎日のように会える。
見送った後でハロルドを探す。
彼は完全なる夜型なので夕方ぐらいにやっと起き出すのだが、それまで待ってはいられない。今日は報告しなければいけないことが沢山あるのだ。
店で買った魔石を浄化して売ったら数倍になって売れたとか、売上金は銀行に預けてあるとか、ストームドラゴンの幼体の死骸を買ってきたとか、色々と言わなくてはいけない。
「ハロルドー!」
この研究室に大量にある本や書類に埋もれて寝ているはずだ。
前に一度あったのは積み上がった物が雪崩を起こして、姿が全く見えなくなっていた事があったので、ハロルドを踏まないように注意しなくてはならない。
あっさり見つけた。
「ハロルド!」
体を強めに揺さぶる。優しく起こそうとしてもハロルドには全く効果が無いので強め位が丁度いい。
「う、ああ、レイか………」
目を擦りながら上体を起こすと乗っていた本がばらばら落ちていく。今日も本を毛布代わりにして寝ていたようだ。
さっそく強い魔物の肉を買ってきたことを告げる。
これをハロルドが開発した浄化液に漬け込んで肉を浄化して、魔道具に食べさせることで強化することが出来るのだ。
強盗に襲われた時もかなり役に立ってくれた愛用の武器なのでもっともっと強い魔道具になって欲しい。
「ああ、そうか………それじゃあ隣の部屋まで持ってきてくれ、ワシは浄化液の準備をするからな」
ハロルドは寝起きのよたよたした足取りで浄化液のある部屋へと向かって行った。
ストームドラゴンの幼体の死骸を買ってきた、とは言わなかった。
あれは結構なインパクトがあるのでせっかっくならサプライスを仕掛けよう。あれは姿がそのまま残っているので見たらきっとビックリするはずだ。
ハロルドは見ただけであれがストームドラゴンだと気が付くだろうか。もしかしたら蛇を買ってきたのか、と言うかもしれない。
入口の所に置いてきた荷物を取りに行く。
手に取って改めて見てみる。やはり蛇のようにも見える。もしこれが死なずに成長していれば、本当に体長数十メートルになっていたのだろうか。
その瞬間、目が開いた。
とっさのことで驚いて体が固まってしまった。
「痛っ!」
手の中に持っていたストームドラゴンが顔に向かって飛びついてきて、その瞬間耳に激痛が走った。
本の上に落ちたストームドラゴンが口を大きく開けながら「シューシュー」と言う唸り声をあげている。
生きている。
死んでいると思っていたはずが生きていた。もしかしたら気絶していただけなのかもしれない。
それよりなにより左の耳が痛い。
「うわ………」
抑えた手の平は血で真っ赤になっていて、床にも血が滴り落ちている。
「シャー!」
必死の叫びをあげる蛇みたいに小さいストームドラゴン。
不思議と怒りが湧いてこなかったのは、前世で見た動画を思い出したから。
野良の子猫が一生懸命に顔だけはライオンみたいに、人間を威嚇していたのだけど、ご飯を貰ったらあっさり食べちゃって、それで家に連れていかれて、結局はヘソ天で寝ている動画。
「レイ!どうかしたのか?」
騒ぎを聞きつけて隣の部屋からハロルドが戻って来たので、死んでると思ってたストームドラゴンが生きていて耳を噛まれたことを告げる。
「ストームドラゴン!?それにしては随分と小さいな、本物なのか?」
そういわれると少し自信が無くなるが「魔力含有測定装置」で計ったら確かに魔力を持っていた。普通の蛇ならそうはならないはずだ。
「それなら魔力をもった蛇の魔物かもしれないぞ」
なんと!
その発想は無かった。確かに魔物図鑑には蛇の魔物もいたはずだ。蛇かストームドラゴンかの2択しか考えていなかったが、確かにその可能性はある。
失敗した。もしこれが蛇の魔物だったら金貨300枚は高すぎた。
「蛇なのかお前は?」
「シャー!」
吠えられた。
改めて考えてみれば「シャー!」っていう声は非常に蛇っぽい。
「窓から逃がしてあげましょう」
「レイはそれでいいのか?」
確かに金貨300枚も払ってしまったのでもったいない気持ちもあるが、一度子猫に見えてしまった以上は殺すのはかわいそうだ。
「魔物の肉はほかにも買ってありますから大丈夫です。なのでこいつのことは逃がしてあげましょう」
「レイがそう言うならいいが………」
「暴れて部屋を滅茶苦茶にされても迷惑ですからね」
「確かにそうだな、よしそれじゃあ窓を上げるぞ」
近い所にいたハロルドが窓を開けている。
「チビ助、聞いたか?逃がしてやるから安心しろよ」
語りかけてみる。
本などによればドラゴンと言うのは人間の言葉を理解できるくらいには賢い生き物なのだそうだ。
もしこれが本物のストームドラゴンなら話しかける価値はあるはずだ。
「っ、」
それにしても耳が痛い。最初よりはましになっているけど、まだ血が滴っている。
「窓は全部開けたぞ、もう何年も開けてなかったから錆びついていて、少々固かったがな」
ハロルドが言う。
「チビ助、ほらあそこから外に出られるぞ。本当にお前がストームドラゴンなら飛べるんだろ?ほら逃げていいぞ」
「シャー!」
俺を睨みながら唸り声をあげた途端、チビ助の体が真上に浮いた。
「おお!」
床に落ちている本や書類がバタバタと音を立てている。
「本物だ………」
確かにそうだ。蛇ならば空を飛べるはずがない。
ドサッと落ちた。
あれ?
「もしかしたらまだ本調子ではないのかもしれんな」
言われてみればそうかもしれない。さっきまで気を失っていたわけだからきっと何かあったのだろう。目が覚めていきなり本来の力を発揮することは出来ないのかもしれない。
「はらへった!」
声が聞こえた。
「おまえくわせろ!」
確かに聞こえるハロルドではない声。
もしかしてお前か?
チビ助ことストームドラゴンの幼体を見る。
お前が喋ってんの?




