57話
「おいちょっと待ちな!」
レイ・フェリックスと、元Bランク冒険者兼詐欺師のカネナリと、冒険者でストームドラゴンを拾ってきた少年ラーテルの3人が、魔物の肉を抱えながら歩いて人気のない路地に来た時の事。
身なりと人相の悪い小太りの天然パーマ男が後方から声を掛けてきた。
強盗か。
相手がそれ以上喋るのを待たず大きく息を吸いこんで戦いの心構えを決める。こいつらは俺たちが魔石の店から出て来るところから着けていたはずだ。
ここは冷静にならなくてはいけない。
強盗に襲われるの初めての経験だが慌ててはいけない。周囲には建物が並んでいるから死角は多い。声を掛けてきた奴は後ろにいるわけだが、敵はそいつだけとは限らない。
周囲をよく確認して冷静に戦うんだ。
「おい待てよ、それは俺たちの獲物だ」
そう思っていた所で横から口ひげを生やした油顔の男が現れた。
「誰だテメェ!それは俺らが狙ってんだよ!」
そう思っていたら反対の横から眼鏡をかけた少しイケメンの男が現れた。
どういうこと?
「敵は3組だ、油断するなよ」
カネナリが言う。
ちょっと待ってくれ。強盗が出て来ることの心構えは出来ていたが、まさかそれが3組もいるとは思わなかった。強盗のチームが1組何人なのかは分からないが、それにしても被り過ぎだろう。
強盗って流行ってんの?
「「「お前ら出てこいや!」」」
その声をきっかけにして建物の影や前や後ろからぞろぞろと身なりと人相の悪い男たちが出て来る。
30人くらいはいて、それぞれに武器を持っている。脅して奪うつもりなのか、それとも殺して奪うつもりなのかわからないが、そっちがそのつもりならこっちだって手加減はしない。
さてどうする?俺たちの中で一番年上で戦いの経験が豊富そうなカネナリに指示を出させるか?チャラいけど。
「うをーーーーー!!」
ラーテルが雄叫びと共に強盗に突進して行った。しかも一番人数が多そうな塊の所に行った。
何してんだよお前、チームなんだから息を合わせていくだろうが普通。隣にいるカネナリからも舌打ちが聞こえた。
「カネナリいくぞ!」
ラーテルの暴走には腹が立ったがここは行くしかないだろう。
背中を追って走り出す。
こっちはたったの3人しかいない。それなのにバラバラに行動するのは不利。お互いがサポートしあえるように、できるだけ近い距離で戦うのがいいはずだ。
ラーテルはすでに大勢の敵に囲まれている中、剣を振り回して一人奮闘している。不安と恐怖はあるがこの状況ではいくしかない。
髑髏の付いた杖を前方に向け白い布を飛ばす。
ビタッ、という音がして、手のひらサイズより少し大きいくらいの布が、敵の顔に張り付いた。
見事的中。
いきなり左目と鼻を塞がれた男は武器を捨て顔に張り付いた布を剥がそうと頑張っている。
粘着性を持った布を飛ばして相手に張り付けるという初めて試す使い方が見事に成功している。
ガッツポーズしたいくらいの気持ちではあるがすぐにラーテルの元へ向かい、人数を減らさなくてはいけない。
囲んでいる男の脇腹を杖の先で突いた。
悲鳴を上げて吹っ飛んで行き、悶え苦しんでいる。
感触的には肋骨を砕いたと思う。
「おらーーー!」
カネナリの雄叫び。
3人の男が一斉に吹っ飛んで行った。
「油断するなよレイ!」
もちろんそのつもり、これは俺にとって初めての実戦だ。目の前の敵だけじゃな周囲をしっかり確認しないといけない。背後からいつ魔道具で攻撃されるか分かったものじゃない。
ラーテルも奮闘している。
けれど一番敵を倒しているのはカネナリ。彼が槍を振るうたびに敵がバッタバッタと倒れていく。
本人の実力も凄いが武器も凄い。
人人無情。
魔武器職人の中でも屈指の狂人と言われるファンコッフォンという男が、五人の大罪人の骨を使って作った槍。
一度使ってみたらその夜に体調不良を起こして高熱が出たので、それ以来使っていなかったのだが、ラーテルは問題なく使えるようなので貸すことにした。
護衛が強いのに越したことは無いし、俺には杖があるので使わないのはもったいない。いまの獅子奮迅ぶりを見れば、それは正解だったようだ。
さあ、俺も頑張ろう。
遠い敵には張り付く布を飛ばして近くの敵は杖で打つ。
最初は数が多くて心配だったのだが段々人数は減ってきた。このままいけばどうやら勝てそう。
やはり興奮する。
普段道場では基礎ばかりやっていて、それも大事ではあるがやはり実戦で勝つか負けるかの勝負は脳汁の出具合が違う。鍛え上げた技で相手を倒すというのは達成感と充実感がある。
突っ込んでくる相手を足さばきで躱して横を取る。そしてがら空きの脇腹に杖の先端でチョンと突く。
それだけで相手の脇腹砕け、吹っ飛んで、のたうち回っている。
杖には魔力を込めているから普通の木とは比べ物にならないくらいの強度と威力がある。
さらには鬼を取り込んで得た腕力。
軽く打ったつもりでも、大人を吹っ飛ばすくらいの威力は楽に出る。
だから無理に振りかぶらなくてもいい、だから深く踏み込まなくてもいい。リスクを冒さずに強力な攻撃を打つことが出来る。
勝てる。
普段考えていても、なかなかできなかった戦い方をこれを機会に色々と試してみよう。油断するなよ、ほらまた敵がやって来た。
髑髏の杖で相手の膝を打ちつける。
悲鳴を上げながら転がっていく強盗。
良い感じだ。
最初は杖に魔力を通すことにも苦労していたのだが、毎日繰り返すことで最近はスムーズにやれている。
これなら多少魔力を使える程度の相手なら十分に戦える。
普段道場にいるのは強者ばかりだから、普通の敵と戦うことで自分の上達を実感できる。
他の二人も手を貸す必要な無さそうだ。
ラーテルの躍動する笑顔と叫び。
何も考えていないような顔をしながら恐れることなく相手に向かって突っ込んでいく。
ずいぶんと楽しそうだね君。
何の相談も無しに勝手に突っ込んでいったから、君には後で説教が待っているんだよ。




