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53話 

 


 冒険者御用達の魔石専門店「ナツウミ」を訪れたレイフェリックス。


「さて、それじゃあ見せてごらん」


 店主のアシカ・エリザベスに促されて鞄から取り出した魔石3個をテーブルの上に乗せた。


 さて、どうなる。


 ワクワクドキドキが止まらない。


「ほう!これは………」


 やたらと目つきの鋭い白髪の老婆がそう言った後、ルーペでじっくりと観察しているのを見てレイの心臓がさらに高鳴る。


 この魔石はこの町で一番大きな魔石店で買ってきた、大きいけれど濁った色をした魔石。それを魔道具技師のハラトロ・モスが開発した浄化液に漬け込んだ物。


 その結果、魔石はたった一晩で見違えるほど澄んだ赤色をした魔石へと変わった。しかし物としては他の店で買ったものをそのまま、ここへと持って来ただけ。果たしてどういう値段を付けられるのか楽しみでしょうがなかった。


 アシカが息を吐いた後で、ルーペをテーブルに置いた。


「確認させてもらったよ」


 ドキドキする。


 魔石と言うのは魔道具を動かすのに使われるもの。まず大事なのは魔力内包数といって、その中にどれだけの魔力を貯め込んでいるかということだが、もう一つ大事なのは澱がどれだけあるか、だ。


 澱は魔物の怨みの念といわれていて、これが多いと魔道具を使った時に中にゴミが詰まって壊れやすくなるのだ。


 その澱の量の目安となるのが魔石の透明度。同じ大きさで同じ魔力内包量の魔石でも透明度が違えば値段も大きく違う。


 レイが持って来たものは買ってきたものをただ浄化液に漬け込んだだけの魔石。なんだかインチキをしたのがバレるか、バレないかを待っているような気持ちだ。


「かなりいい魔石じゃないか。大きさも申し分ないけど、特に透明度がいいね。これほどきれいなものはそうそうお目にかかれるもんじゃない。宝石にだって使えそうだよ」


 どうやら相当に高評価のようだ、値段はどうなるんだ。


「まあ、色々といらないことを言ってしまったが、うちの店では一つにつき3,780万ゴールドで引き取るよ」


 おお!!


 思わず声が出そうになった。この魔石はもともと一つ500万ゴールドで買ったものだ。それをたった一晩だけ浄化液に漬け込んだだけで7倍以上の値段になるとは思いもよらなかった。


「けど他のまともな店なら3,800万ゴールド位の値はつけるだろうね」


 真っ直ぐ目を見て言われる。


 落ち着け。


 平然とした態度で相手に心を読まれないようにしろ。別に悪いことをしているわけではないのだけどそうした方が良い気がする。


「さあ、どうするんだい?」


 そう言われれば普通は他の店に持って行くだろう。なにせ一つにつき20万ゴールドも金額が違うのだ。


 それでもこの店が冒険者御用達と言われる理由。それは早いし楽だから。


 父親から聞いた話では普通の店ならたった一個の魔石を鑑定するのに1時間や2時間は平気でかかるのだそうだ。


 冒険者と言うのは大体がせっかちな性格だ。街の外で魔物を倒して魔石を持って帰ってきたら、すぐに金に換えて飲みに行きたいのだ。しかも色々な書類を書かされる。


 それだったら少しくらい安かったとしてもこの「ナツウミ」でパっと金に換えてしまいたい。しかも散々待った挙句に買取金額が高くなるとは限らない。


 だから冒険者たちはこの店に来るのだ。最初は待つだけでもらえる金額が変わるのなら待てばいいじゃないかと思っていたレイだったが、いざ自分が売るとなると、いくらで売れるのかすぐに知りたいし、すぐに換金したくてしょうがなかった。


「その金額で大丈夫です」


「取引成立だね?」


「はい」


 それからはすぐにテーブルに大金貨が積み上げられていく。


 嗚呼。


 なんという快感。あの黄金の輝きは今から自分のものになると思うと胸が高鳴る。この世界で最も高い価値を持つ大金貨の輝き。


 正確に言えば取り分は浄化液を開発した魔道具技師のハラトロ・モスと折半という事にしているから全部が自分のものではないのだが、なんだか体がふわふわしながら興奮している。


 大金貨100枚、金貨134枚の黄金の輝きがテーブルの上にあった。


「いれる袋はサービスしておくよ」


 書類に受け取りのサインを書いた後で貰った袋に黄金の輝きを入れていく。今までに感じたことのない重さ。さっきとは違う意味でドキドキしてきた。誰かに盗まれるんじゃないかと不安になって来る。


「ああそうだ………」


 鋭い目つきをした白髪の老婆が何気ないような調子で言う。


「私たちみたいな店には、出入りする客を監視しているやつがいるから、せいぜい気を付けなね。この後に何があろうとそれは自分の責任だよ」


 なんと!大金を受け取って上機嫌になっているところを狙って金を奪う。なんという汚い手だ。


「大丈夫ですよ、用心棒を連れてきているので」


 入口の方に目を向けると赤茶色の髪をした坊主頭の男が肩を竦めた。


「たったひとりだけで大丈夫かい?」


「これくらいのことは楽々出来てもらわないと護衛の意味が無いですよ。そうじゃないですかカネナリさん?」


「こんなもの子供のお使いさ。できるに決まってるよ」


 自信ありげに答える。


 このティンベー・カネナリと言う男。前にケーキ屋の列でシャルルと揉め、その後、学園に怪我をさせられたから金をよこせと言ってきた男だ。


 警察と協力して詐欺で捕まえて本当は鉱山送りになるはずだったところを、レイの護衛として雇うことになったという経緯がある。


「それじゃあこれ持ってちょうだいね」


 大金貨と金貨が詰まった袋を投げる。


「俺が持ってていいの?」


「もちろん」


 意外そうな顔をしているが、いざという時の事を考えればカネナリが持っていた方が安心だ。


 元Bランク冒険者でいまはシャルルの道場で一日中鍛えさせているからさすがに強い。あの時のシャルルは一回も攻撃を当てることが出来なかったほどの実力者。


 泥棒対策として一応自分としても準備はしてきたつもりだが、それでもいまはカネナリの方が強いのは間違いない。


「さあ行こうか」


 扉を開けた途端に外の風が吹いてきた。


 果たして本当に泥棒は襲い掛かって来るのだろうか、そしてその時にカネナリはどんな行動をするのだろうか。



 レイの心は高鳴っていた。




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