49話
ティンベー・カネナリは朝起きた時から今までにないくらい、自分の心が浮ついているのを感じていた。
今日でようやく1千万ゴールドが手に入るのだから当たり前なのかもしれないが、過去の経験上、こういう時には良くないことが起きると知っていた。
用心しなければ。そう思いながら銀行のソファーに座わりレイ・フェリックスが来るのをまっていたところで急に突入してきた武装した男たちに取り囲まれた。
銀行に入る前に持ち物はすべて預けているからこちらは丸腰。それに対して相手は準備万端で待ち構えていたようだ。
「ティンベー・カネナリだな」
引き締まった顔で咥え煙草をした、いかにも刑事という男が言った。物腰からして中々のの実力者に違いない。
「そうだけどあんた達は?」
「言わなくても分かるだろう、警察だよ」
胸ポケットから取り出した警察手帳を一瞬だけ見せてしまった。
「警察?人違いじゃないの?俺は悪い事なんか何にもしてないよ」
「白々しい嘘は止めたらどうだ、こっちには証拠が全部そろってんだからよ」
「だから知らねえって言ってんだよ!」
大声をあげて相手の様子を伺うが、相手に陣列に乱れはない。かなり訓練されている奴らに違いない。
「貴族の子弟相手に詐欺しかけといて、簡単に許されるなんて思ってねえだろうな?」
「俺はまだ1ゴールドも受け取ってねえのに、なんで捕まるんだよ」
「金を受け取る受け取らないなんか関係ないな。こっちはお前が学園に現れた日からずっと追ってきたんだからな、証拠は十分だ」
「なんだと!?」
レイ・フェリックスの顔が思い浮かんだ。
最悪だ。
あいつは最初から金を払うふりをしながら俺を捕まえる準備を進めてきたんだ。今まで書類の準備の時間だとか言って時間を稼いだのも、こいつらと協力して俺を捕まえるための準備をするためだ。
「逃げようったって無駄だぞ、元Bランク冒険者のカネナリよ」
舌打ちが出た。
「素行不良で冒険者をはく奪にはなったが、実力的には将来のAランク候補とか呼ばれてたらしいじゃないか。そんなお前を相手にするのにこっちも油断なんかしねぇよ。その為にしっかり準備してきたんだ」
どうりで手練れしかいない気はしていたんだ。しかもこの咥え煙草以外の10人くらいの武装したやつらは、少し離れた位置から銃口をこっちに向けたまま微動だにしていない。
これを切り抜けるのはいくら何でもかなり難しい。
「このあたりの景色をよく覚えておいた方が良いぜ、しばらくは戻ってこれねぇだろうからな」
「どういうことだよ!」
「勘の悪いやつだな。お前はこれから10年か20年か、鉱山でみっちり働くことになるんだよ」
「ちょっと待てよーーー」
言葉の途中で、カネナリの体には突然の高圧電流が走り、泡を吹いて倒れた。
「よし、捉えろ」
その声を合図にして3人の男達がすぐさま両手両足を縛り上げにかかる。
「油断するなよ、もしかしたら死んだふりかもしれない」
明らかに気を失っているであろう相手にすら油断しない彼らは、貴族を犯罪から守るために組織された精鋭たちであり、カネナリがいくら実力者と言えども丸腰で立ち向かえるような相手では無かった。
「クサカベさん、ありがとうございました」
隣の部屋から出てきたのはレイ・フェリックスとシャルル・ド・ゴール。
「なんのなんの。相手が強いことは最初から分かってたし、準備の時間も十分にあったからね。これでトチったら警察辞めなきゃいけなかったよ」
「死んでないですよね?」
拘束され泡を吹いているカネナリを見下ろしながら言う。
「まあ大丈夫でしょう」
「元Bランク冒険者をあっという間に戦闘不能にするとは、この魔武器の威力はすさまじいな」
「これじゃあ打ち合わせ通りにこいつのことは牢屋に閉じ込めておくけどいいんだよな?」
「もちろんです」
「こいつのこと、これからどうするつもりだ?」
満足そうな笑みを浮かべる黒髪の子供を見る。
「本人次第ですよね」
そこには微かな凄味がある。
「使える人材なら使いたいという気持ちもあるんですよ。あれほどの実力者ですから、鉱山で働かせるよりもそっちのほうが有用だと思いますね」
「奴隷にするつもりなのか?」
「本当はそうですけど、実際は難しいですよね。後で復讐されても困りますし」
「そうか………」
「それじゃあ僕たちはこれで失礼します」
「ああ、協力に感謝する」
「こちらこそ」
去っていく二人の背中を見ながら、クサカベは思う。自分があの年の頃には詐欺を仕掛けてきた元Bランク冒険者相手に完璧にやり返すなんて真似は出来なかっただろう。
「末恐ろしいな………」




