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48話

 


 シャルルと話がしたい。


 そう言ってシャルルと担任のエメリー先生と共に席を立ったレイ・フェリックスが、しばらくしてから戻ってきた。


「あの子はどこへ行ったの?」


 戻ってきたのはレイと教師だけでシャルルの姿が無かった。


「シャルルは反省しすぎて帰りました」


「はあ?」


 包帯で顔をぐるぐる巻きにしたティンベー・カネナリは、素っ頓狂な声をあげた。


 昨日のケーキ屋の列での騒動で大怪我をしたと言うカネナリは、学園に1千万ゴールドを要求するためにやって来たのだ。それなのに怪我をさせた張本人がいなくなるというのはどういうことだろうか。


「けれど安心してください。1千万ゴールドは僕が払います」


「どういうことだよそれは」


 ソファーから腰を上げていたカネナリが問いただす。


「まあ、まずは落ち着いて座ってくださいよ。立ったままではお話がしにくいでしょう」


 レイがにこやかに言った。


 おかしい。


 カネナリは違和感を感じた。目の前にいるこの子供のこの落ち着き払った態度はなんだ、まるで大人のようじゃないか。自分がそのくらいの歳の時には知らない大人としっかり目を合わせて話すこともできなかったというのに。


「わかったよ。その代わりちゃんと説明してくれるんだろうね」


 言われた通りに座る。


「もちろんですよ」


 笑顔で言われた。


「僕がシャルルを連れて席を立ったのは、ここでは話をしにくいだろうと思ったからなんです。彼女は結構な人見知りなので、静かなところで僕が聞いてみた方が良いだろうと」


「なるほど………」


「そしたら素直に話してくれました。あの時の事は記憶が定かじゃないみたいなんですけど、落ち着いて考えてみたら、もしかしたら自分の攻撃が当たって、カネナリさんに怪我をさせてしまったかもしれない。そう言っていました」


 カネナリは内心でガッツポーズをする。


「シャルルは泣き崩れて立てないほどショックを受けていたので、帰ってもらうことにしました。そのかわりに昨日のことについては代わりに僕が話をさせてもらいます」


「君が?」


「僕としても昨日のことで友達のシャルルが退学になったりしたら困ります。なので僕が代わりにお金を払います。それでどうでしょうか?」


「ふむ、どうだねカネナリさん」


 学園長のサンボ・ヒョードルが聞いてきた。


 嫌な顔だ。


 貴族や王族の子弟が通う学園の学園長。かなり身分の高い人間に違いない。当たり前のように人を見下したような態度を感じる。きっと金を要求してきた俺のことを虫けらか何かだと思っているに決まっている。


「俺としては金を払ってくれればいいよ。本当は本人から直接謝ってほしかったけどそんなにショックを受けているのならしょうがない」


 レイを見る。


「それはいいんだけど俺としてはすぐに金が欲しいんだ。君にそれが出来るのかい?」


「できますよ」


 あっさりと言う。


 やはり王立ワシントン学園に通うようなガキは金持ちだ。俺が金にさんざん苦労しているってのにこいつらは親からたんまり小遣いをもらえるんだ。


「僕の貯金はいま2千万ゴールド以上はありますから余裕を持って払えます。色々と書類を書いてもらえれば、そのあと一緒に銀行に行きましょう」


「書類?」


「もちろんです」


 あっさり言う。


「お金をお支払いするという事は、昨日シャルルが怪我をさせてしまったことを無かったことにしてもらえるという事ですよね?」


「そりゃあそうだ」


「それなら怪我をさせてしまったことを後でまた持ち出してきて、問題にされては困りますからね。そのことをちゃんと書面で約束してもらわないといけません」


「俺がそんなこと言うと思ってんのか?」


「そういう問題ではありません」


 少し睨んでみたが、レイという子供には動揺する気配が全く無かった。


「ちゃんとした大人なら当たり前のやり方ですよね?」


「もちろんそんなことわかってるよ。冗談で言っただけさ」


 俺のことを馬鹿にした腹の立つ顔をしている。


「今パッと思いつくのだと、誓約書は書いてもらわないといけないですし、先ほど見せてくれた診断書も提出してもらわないといけないですね」


「診断書もか?」


「もちろんです。怪我をしていないならお金を払う必要は無いわけですから。その証拠は絶対に出してもらわないといけません。違いますか?」


「ああ、なるほどそういうことね………」


 なんだこいつ、本当に子供なのか?この王立ワシントン学園にいる子供は、こんなにも堂々と大人と渡りうような奴らばかりいるというのか。


「それが出来ないのならお金はお支払いできませんけどどうしますか?諦めて引き下がりますか?」


 レイの目。


 こいつは俺を試してやがる。つまりこれはあいつにとって脅し。色々と小難しい話を持ち出せば俺が引き下がるかもしれないと思っているんだ。もしかしたら俺が怪我をしたという事自体も疑っているのかもしれない。


「どうしますかカネナリさん。私としてはレイは当然のことを言っていると思いますね、お金をお支払いするということは、シャルルの将来を守るために色々とやっていただかなくてはなりません。口約束などもってのほかだ」


 学園長のサンボ・ヒョードルも俺を見ている。


 相変わらず人を見下したような冷たい目だ。舐めやがって、俺はこんなことで引き下がるような男じゃないぞ。


「わかったよ。書類ならいくらでも書いてやろうじゃないか。その代わり全部揃ったら1千万はしっかり払ってもらうぞ」


 真っすぐにレイの目を見て言ってやる。


「そうですか………」


 レイは視線を逸らし、うつむきながら言った。


 悔しそうな態度に胸がスカッとした。


 一千万の為なら書類を書くことくらいは何ともないんだ、お前ら貴族のガキに撮っちゃ大した金でもないだろうが俺にとっては大金だ。


「それじゃあ書類はこちらで準備します。1週間くらいで用意が出来ると思いますので、連絡先を教えてください」


「一週間?そんなにかかるのか?」


「法律に基づいたしっかりとした書類ですからね。すぐには準備できません」


 カネナリは法律のことなど知らない。


 そう言われてしまってはどうすることもできなくて、引き下がるしかなかった。




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