46話
通い慣れた王立ワシントン学園への並木道を歩く。
朝露に濡れた緑の葉が美しい。昨日もその前の日も見ていたはずなのに、この美しさに気が付かなかったことを少し不思議に感じる。人間というのは見ようと意識しなければ見えないものなのだな、と思う。
いつも廊下を通っているのだけど、今日はなんだか騒がしい気がする。あまり見ない顔の生徒が多い。何か事件でもあったのだろうか。
教室のドアを開けるとシャルルが取り囲まれていた。これは非常に珍しいことだ。シャルルというのはかなりの人見知りだ。
さすがにクラスメイトとは毎日会うから慣れてきたと言っても、本当に仲がいいのは数人くらいで、今みたいに囲まれたりすることは無かったはずだ。
「あ!」
シャルルと目が合った。気のせいかもしれないが、かなり困っているように見える。そして俺が来るのを待ち構えていたような気がする。
すると案の定、シャルルはすぐさま人波をかき分けてこっちに来た。
「遅いじゃないのよ!」
いきなりの抗議から入って来るとは思わなかった。
「朝の挨拶が先じゃないの?」
「いいのよ、そんなのは」
シャルルはなんだか焦っているようだ。それにしたって挨拶をするくらいの時間はあると思うのだが、まあいいか。
「それにしてもすごい人気だな」
「昨日のあれのせいよ」
たぶんケーキ屋の列で傘ぶん回したあの事件の事だろうな。
「学校に来てからずっとあの時の話を聞かれて困ってるのよ」
「それはしょうがないでしょ、あれだけ暴れたんだからさ。見てる人もたくさんいたんだから、そりゃあ話題にもなるよ」
「ううう………」
なんだかとても反省しているようだ。
「なんとかならないの?」
「それはさすがに難しいと思うよ。時人の口に戸は立てられぬ、っていうからね。間が過ぎるのを待つしかないんじゃないかと思うよ」
「そんなぁ………」
絶望的な表情を浮かべている。
俺も目立つのはあまり好きじゃないから気持ちはわかるけど、目立ってしまうのはさすがにしょうがない。クラスメイトがあれだけ暴れてたら普通に気になるし。
「しばらくは大人しくしていることじゃないか?そのうちにみんなの熱も冷めてくると思うから。それまではなんとか耐えてくれ」
「ううううう………」
しょうがないよ、こればっかりは。
アナウンスが鳴った。
「えー、一年のシャルルドゴールとレイフェリックスはすぐに職員室に来なさい。繰り返す、一年のシャルルドゴールとレイフェリックスはすぐに職員室に来なさい。以上」
呼び出しだ。
この学園に来て初めてだな。朝一から呼び出されるということは間違いなく昨日のシャルルの大暴れの件についてだな。なんで俺まで呼び出されているのかは分からないけど。
「さあ、行こうか。たぶんお説教くらうと思うから、心の準備はしていった方が良いと思うな」
「お説教!?」
そりゃあ普通に考えたらそうだろうよ。
「そんな、なんで私がこんなことに………呼び出しなんかされたら余計に目立っちゃうよ。私は静かに暮らしていきたいのに」
それじゃああんなことしなきゃよかったのに、と思いつつも言わない。それくらいのことはシャルルも分かって言っているだろうから。
「まあまあまあ、やってしまったものはしょうがないよ」
「はぁ………」
子供とは思えないくらいに深いため息。
「私、先生にお説教なんてされたことないよ。どんな感じになるのかな………」
「そうだな………とりあえずは反省している感じで行った方が良いかな」
「そうよね………けどレイが一緒なのは少し安心かも」
「それはよかった」
シャルルからの信頼を感じる。
年月で言えばそれほど長いこと一緒にいるわけでもないし、最初は随分とツンツンしていたシャルルだけど、ここ最近は大分仲良くなってきていると思う。
シャルルはもともとかなりの人見知りだから先生に怒られるのは辛いだろうな。ここは元高校生の俺が何とか頑張ってシャルルがあまり怒られないようにしたい。
先生をうまく説得できるといいんだけどな………。
さすがに厳しいかな?
待てよ、そうだよな。なんで俺まで呼び出されているんだろう、そんな覚えはないんだけど………。




