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44話

 


 ラッキーだと思った。


 今話題のケーキ屋さん「ストラスブール」に到着した時にはもうすでに長蛇の列ができていたので、私たちが狙っている「天使のふわふわプリン」はきっと買えないだろうと諦めていた。


 それなのに列に並んだらお店の人がやってきて、このプラカードを持ってもらえますか?と頼まれた。それには「これ以降、天使のふわふわプリンは売り切れです」と書いていた。


 お店の人によれば最近あまりにも人気すぎて一人一個しか買えなくなったそうだ。つまりいま並んでいる私たちは全員ひとり一個づつだけど買えるという事。みんな飛び上がって喜んでいたし私も嬉しかった。


 プラカードを持つのは恥ずかしいけど、これだけたくさんの人が並ぶという事は相当美味しいプリンに違いない。この列の長さを考えれば買えるのはまだ時間がかかりそうだけど、お話ししながら待てばいいんだから大変ではない。


 あいつはちゃんと付いてきているだろうか。


 女子の中に男一人は辛いとかさんざん文句を言っていたので、仕方なく遠くから見守るでもいいという事にしてあげた。


 私が不安になるようなことをたくさん言っておいて、まさか嫌になって途中で逃げたなんてことは無いだろうなと姿を探す。


 いた。


 建物の端っこの方に姿が見えた。何もあそこまで隠れなくたっていいような気がするんだけど、あいつの考えていることはよく分からない。


 まあでもこれで安心してケーキを買うことが出来る。街の中とは言え、本当は子供たちだけで出歩くことは禁止されている。私だけじゃなくて皆もそうだ。


 お喋りは楽しいけれど、そのせいで少しだけ悪いことをしているみたいな気持ちもある。


「はぁー!おい見ろよキョロメ、このプラカードに天使のふわふわプリン売り切れって書いてるぞ」


 3色に髪を染めて派手な服を着ている頭の悪そうな男が私の近くまで来て大声で言った。


「えーまじで?っていうかだからもっと早く行こうっていったじゃんカネナリ。私どうしても天使のふわふわプリンが食べたいんだけど」


 唇にピアスを付けた青い髪の女が不機嫌そうに言った。


「俺のせいじゃねぇーよ!なんで売り切れるんだよ、もっとたくさん作ればいいだろうによ」


「ほんっとそれ。売り切れなんてこの店、調子に乗ってんじゃないの?」


 ガムを噛みながら二人が喋る。


 というかプラカードを持っている私の後ろには、もうすでに結構な人数が並んでいるので二人は惜しくも買えなかったとかでもないんだけど。


「良いこと考えた!」


「良い事って何よ?」


「良いことは良いことだよ、ちょっとだけ待ってろよキョロメ」


 男は私たち所までやって来た。


 嫌な予感。


「おじょーちゃんたちさ、俺たちと場所変わってくんないかな?」


 はぁ?


 こいつは馬鹿じゃないだろうか、そんなの絶対に代わるわけもない。


「代わりにこれやるからさ。な、いいだろ、変わってくれよ」


 男はポケットからチューイングガムを取り出して差し出してきた。


 話にならない。


 子供だからと思って馬鹿にし過ぎだろうと思う。新品のガムならまだしももうすでに半分より少なくなっているやつなんか欲しくない。特にこの男がポケットに入れていたガムなら余計にだ。


「な?いいだろ?」


 腹の立つ顔をしている。


 いまから街で評判のケーキ屋さんで天使のふわふわプリンを買って食べようとしているのに、なんでガムなんか食べると思うのだろうか。


 睨みつけてやる。


「お、見てみろよキョロメ。この子、俺を睨んでるよ。良い度胸してるねー!」


「めっちゃ生意気じゃんそいつ」


 後ろから引っ張られる感触がして注意を向けると、他の子たちはすっかり怖くなってしまったみたいで小さくなっていた。


 腹が立つ。


 私たちはちゃんと早く来て列に並んでいるんだ。それなのになんでこいつらは私たちの順番を奪おうとしているのだろうか。


 こんなことを許したら絶対に駄目、私たちが正しくてこいつらが間違ってるんだ。


 持っていた傘の先を地面に叩きつける。


「お?おお?それ、普通の傘じゃねーじゃん」


 カネナリと呼ばれた男は気が付いたようだ。


 そう。


 この日のために私は準備をしてきた。この状況を考えればレイに相談していてよかったと思う。私は何かあった時のために武器としても使える傘を持ってきた。中心部分は太くて丈夫な金属が使われているので、よほど強く叩かない限りは曲がらない。


 晴れているのになんで傘なんか持ってきたの、と言われて恥ずかしかったけど持ってきた良かった。これなら木刀を持ってきているのと変わらない安心感がある。


 構える。


「ひゅーお!」


 カネナリが変な声をあげた。


「消え失せろ」


 言ってやる。


「やなこった!俺たちは美味しいのを買いに来たんだぜ、それなのになんで帰らされなきゃならないんだよ。そもそも俺は人から命令されるのが大っ嫌いなんだよ。買うまでは絶対に帰らないぞ」


 街の人の騒ぐ声。


 注目が集まっているのを感じて緊張感が高まる。



 だけど私は絶対に退かない。


 悪いのはこいつらだ。




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