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43話

 


「お休みの日にシャルルがお友達と遊びに行くなんて感動的だな」


 嬉しそうに語るのはフェルナンド・ホセ・トーレス。レイと同じ道場に通うアッシュグレーの髪色をした、なかなかのイケメン剣士。


「少し緊張しているように見えますね」


 レイ・フェリックスが少し離れたところの物陰から、シャルルとクラスの女子たちが楽しそうにケーキ屋さんへ向かう様子を見ている。


「大丈夫、初めては誰にでもある。それを乗り越えてみんな大人になって行くんだ」


 どこかで聞いたようなセリフを言うトーレスさんと、どうして小学女子の後を付けているかと言えばこれは彼女たちに何かあった時に助けるためだ。


 シャルルからは何かあった時のために一緒に来てくれと言われたが、もともとは高校生であった俺が小学女子の群れと一緒に街で話題のプリンを買いに行くのは辛いので、近くにいて何かあったら助けれるようにする、という事で何とか話を付けた。


 その結果、ストーカーみたいになっているわけだが、クラスメイトがプテラノドンに攫われないためにはしょうがない。そんな悲劇が起こると決まったわけではないけれど。


 しかし少々心配だった。


 何かあった時に自分とシャルルだけで果たして守り切れるのだろうか。今回のメンバーはシャルルを抜けば4人。護衛なんてことはシャルルも自分もしたことが無いのだ。


 どうしようかと悩んでいる時、道場にもう一人悩んでいる人がいた。それがトーレスさんだった。


 トーレスさんは最近結婚したばかりで幸せの絶頂にいるようで、何かにつけては奥さんの話ばかりをしているので道場で少しだけ煙たがられている人だ。


 そのトーレスさんが奥さんと喧嘩をしたらしい。原因は奥さんが買ってきて楽しみに取っておいたケーキを食べてしまったこと。トーレスさんはなんで自分の分だけ買って俺の分は無いんだといって言い合いになったらしい。


 トーレスさんには申し訳ないと思いつつもレイには非常に都合がよかった。


 剣士としてのトーレスさんは攻守ともに優れたオールラウンダータイプで、感情が出過ぎることが無く冷静。剣士としての腕はレイよりもはるかに上で頼りになる。性格的にも気さくで話しかけやすい。


 そしてシャルルがクラスの女子たちと一緒に行こうとしているのは、いま街で評判のケーキ屋さんだ。


 シャルルが何かあった時のための監視をしながら、そのケーキ屋さんでお詫びのケーキを買っていくのはどうだろうか。なんなら花束も一緒に。それで奥さんは許してくれるんじゃないか。しかもシャルル達の安全のためになるのならみんな幸せだ。


 レイはトーレスにそう提案した。


 確かに良いアイディアだとトーレスは言った。しかし彼にはそれをできない理由があった。言いにくそうに言うのを何とか聞き出した結果、その問題とは金欠。新しい家への引っ越し費用を貯めるためにトーレスさんのお小遣いも減らされてしまい、そんな余裕は無いという。


 それならばと、レイは大銀貨を取り出した。


 大銀貨とはこの世界において1万ゴールドの価値を持つ貨幣。腕のいい職人が一日働いてようやく稼ぐことのできる金額。しかし王立ワシントン学園の運動能力試験で一位を取って賞金3千万ゴールドを手にしたレイにとっては簡単に出せる金額だ。


 トーレスの動きが止まった。


 子供から金を受け取ることは出来ないと、怒られるかもしれないと思った。気軽に出してしまったが普通の大人なら怒ってもいい。


 けれどトーレスはあっさり受け取った。なんでもプライドよりも夫婦仲の方が圧倒的に大事だという。少し呆れながらもその冷静さは信用できるとレイは思った。


 そんな二人の男に追跡されながらシャルル達は目的のケーキ屋さんに到着した。


 人人人。


 街で評判のケーキ屋さんというだけあって、そこはすでに長蛇の列だった。


「おいレイよ」


「はい」


「これはケーキ屋に並んでいる人の列で間違いないんだよな?」


「そうだと思います」


「一応確認したいんだけど、シャルル達は今からこの行列に並ぶっていう事だよな」


「そうですね………」


 まさかこれほどの人気だとは思いもよらなかった。


「俺、帰っていいよね?」


「シャルルの安全のことを考えたら、それはちょっと………」


「ケーキなんてどこのやつでも大体同じじゃないか?」


「僕もそう思います」


 トーレスとレイはため息をついた。





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