41話 ~ラーメン~
部活動を作ろう。
それはクラスメイトのオクダ・サンコンが大人になったらは飲食店を開きたいと言っていたのを聞いて思いついた事だ。
食べることが好きだから、というとても子供らしい理由だった。ただ、具体的にどんな店なのかは考えてないようだった。
レイはラーメン屋を勧めた。
この世界に感じる数ある不満のうちの一つが、好みのラーメンが無いという事だ。
麺とスープを使ったラーメンらしきものはあるのだが、香草をのせたあっさり系だったり、スープの代わりにトマトソースだったりと、求めているものとは全く違うものしかない。
俺の求めるラーメンはそんなんじゃない。欲しいのは出汁の効いたこってり系のラーメン。背油とニンニク、そしてチャーシューと煮卵が乗った、いかにも体に悪そうなやつが食べたいのだ。
前世でラーメンは週に一度食べるか食べないかで、自分がそれほどラーメン好きだとは思っていなかったのだが、無いとなると無性に食べたくなる。食べたいけれど店が無い。
それなら彼を部長にしてラーメン部を作ればいつでも好きな時にコッテリラーメンが食べられる。
なぜわざわざ部活動でそんなことをするんだと言われるかもしれないが、それには理由がある。
部活動として認められれば、活動費用は学校から支給されるからだ。
つまり自分好みのラーメンを作りながら、かかる費用はすべて学校が出してくれるという素晴らしいシステム、それが部活動なのだ。
もちろん新しい部活を作るには条件があって、申請書類の作成だとか、部員を7人以上集めることだとか、活動内容の報告だとか、色々とやらなければいけないことはあるのだが、そこは他の部員にやらせれば、やらせればというか一緒にやればいい。
さっそく申請書類を用意してサンコンと一緒に書いていく。部活動を作ろうと言った時には、かなり戸惑っていたけれど。
最初は部長をサンコンにして部活動名を「サンコンラーメン研究会」にしようと思っていたのだけど、泣きそうな顔をしたサンコンから、ラーメン作りは頑張るからそれは勘弁してくれと言われたので、「ワシントンラーメン研究会」にした。
他の部員はシャルルをはじめとして、仲のいいクラスメイトに名前を書いてもらっていたのだが、まだ足りない。7人という最少人数は満たしているのだがもっともっと部員が欲しい。
なぜならば人数に応じて部費の上限が変わって来るからだ。
それならアーサーに頼むのが一番いいと気が付いた。そしてあいつと仲のいい生徒にも名前を書いてもらうように言う。部活動には参加しなくてもいいからと頼んでみたら結構集まった。
これで大丈夫だろうと、意気揚々と先生の元へ持っていったら活動する場所が無いという。
普通の部活動と違ってラーメン作りには火を使う。学園に調理室はあるのだが、それはもう他の部活動によって使われている。普通の部屋では火事の危険があるからダメだという。
どうしたものかと考えて、外にテントを建てて部室とすることにした。周囲に何もないところにテントを立ててやれば例え火事になったとしても燃え広がることは無い。
普通なら駄目だったのかもしれないが、アーサーを連れて行って説得したので何とか通った。先生とはいえ公務員だから王子にはなかなか逆らえないだろう。
後からアーサーに「何かと言えば俺を利用して」とかグチグチ文句を言われたが、美味しいラーメン作りのためにはしょうがない犠牲だ。たぶんあいつもそこまで本気で嫌がってはいないと思う。なんとなくだけだけど。
シャルルもアーサーもサンコンも今はそれほど乗り気ではないようだが、それはこってりラーメンを知らないからそう言っているので、何回か食べれば虜になると思っている。
ニュースで見る限り日本に来た外国人もラーメンを食べたら夢中になってしまうと聞いた。同じ人間である以上はこの世界でもそうなるはずだ。
これでようやく部活動として認められ、部費が支給されるようになったのでテントや寸胴やその他もろもろを買うことが出来るようになった。
ここからはサンコンの出番。
最初はどこか他人事みたいな感じだったのが、だんだん本格的に「ワシントンラーメン研究会」が動き出し始めると、本気の顔になった。
学園の中に突然現れたテントの存在に、クラスメイトや上級生、先生も様子を見に来るようになったからだ。
ここからが大変。
なぜなら俺はラーメンはインスタントしか作ったことが無いからだ。だけど薄っすらとは知っている。前世で二郎系ラーメンを作る動画が好きで何回も見ていたからだ。これだけを頼りにサンコンに頑張ってもらう。
大丈夫、それほど難しくは無かったはずだ。
豚骨を一度下茹でして臭みを取ったらゆで汁を捨て、ネギやニンニクなんかの香りが出る野菜と一緒に煮込むとかだった気がする。
駄目なら駄目でやりながら変えていけばいい。失敗したとしても部費は全部学園が出してくれるのだから失敗を恐れる必要は無いのだ。
ここで重要なのが、「ワシントンラーメン研究会」で使う骨は豚骨だけではないという事だ。この世界にも豚は居るのでスープは豚骨を煮込んで作るのが一番手堅く美味しいものが出来るのは分かっているのだが、部活動である以上それでは駄目だ。
ラーメン研究会と名乗っているのは、色々な魔物の骨でスープを取ったらどうなるのか、どの魔物の骨がスープに適しているのかを研究するためでもあるからだ。
研究成果をまとめて、学校に提出することで部活動として認められて、初めてただでラーメン作りができるのだ。
これは学校に部活動を認めさせるための理由付けでもあるのだけど、実際に興味もある。
この世界には前の世界にいない魔物という生き物がいるわけだから、もしかしたら豚よりも美味しい魔物がいるかもしれない。
頑張れサンコン。
上手くいけば君はこってりラーメンの元祖になれるんだぞ。
こうして学園の片隅からはいつも美味しそうな匂いが漂うこととなった。




