40話
心配していた学園生活だったが思いのほか順調だ。
クラスメイトとは普通に話せるようになっていて、貴族の子供とは言え普通の子供と同じなんだなと思うことが多い。これはきっと昔高校生だったから、その心の余裕も関係しているのかもしれない。
相手が小学生だと思うと少しくらい生意気なことを言われても許してやろうと思う。言っている内容自体がそもそも低レベルだというのもあるけど。
それとこのクラスにいる生徒が特別だというのもあると思う。貴族の子供と言ってもこのクラスには魔臓を持たない生徒が集められている。魔臓というのは魔力を生成する臓器で下腹部の辺りにあると言われているものだ。
つまりこの世界で重要な魔法が使えないのだ。
一般人でもその有無は大きいが、名誉を重んじる貴族となるとそこは大きくて魔法が使えなければ当主となることが出来ないということが普通にあるようだ。だからそういう子達は、どこかしら引け目とかそういうものがあるように思う。
だからクラスの中にいるときは人間関係的に大変な思いをすることはあまりない。シャルルもだんだんと馴染んできているようだ。気が付かないうちに女子生徒と談笑している姿も見るようになってきた。
結構問題があるのはクラスを離れている時。
この学園のルールとして、外の世界の身分とか立場を持ち込んではいけないというものがあるのだが、実際はかなりの建前のルールで一般人に対する見下した視線を感じることはかなりある。
その為に第12王子アーサー・ペンドラゴンと必要以上に仲良しアピールをして寄って来る虫を追い払っているのだが、それでも絡んでくる馬鹿がいる。
自分だったら後の事を考えて王子と対立するような真似は絶対にしないので理解できないのだが、やはりそこは子供だからなのか、馬鹿はどこの世界にも必ずいるということなのか。
となりにアーサーがいるときには何も言ってこなくても、離れている時には色々と言ってくる。
そういう時には「決闘」というこの学園で認められている勝負方法を使うことにしている。
「決闘」というのはその名の通りお互いに戦ってどちらの意見が正しいか決めるやり方で、負けた方は相手に謝って頭を下げなければいけない。
これが結構効果的なのだ。
一番最初に使ったのはボウンサーとかいう名前の上級生だった。5,6人の取り巻きを引き連れてアーサーがいない教室にいるところを狙って入ってきたので「決闘」を宣言してやった。
これで相手が受けなければ「決闘」は成立しないのだが周りの目があるからだろう。余裕の顔をして受けてきた。ある程度体が大きかったので自信もあったのだろうが、まさかそんなことを言われると思っていなかったのだと思う。
「決闘」というのはとにかく盛り上がる。学園が認めているものだから放課後に運動場でやるのだが、観客が集まって来る。
ここで負けたら大恥だな、と思ったがよく考えてみればこっちは学年が下なのだから負けても当たり前だと思うと落ち着いて望むことが出来た。
いざ一対一で立ち会って見るとよくわかる。
相手の体が他の生徒に比べて確かに大きいが、自分の体もそれに負けないくらいに大きい。体の横幅は負けているが立ち姿を見ても迫力を感じない。剣の練習はある程度しているのかもしれないが、普段から見ている道場生に比べればただの子供だ。
大きな歓声に緊張しているのも分かる。そんなものこっちは入学試験の時に経験しているし、こっちは高校生だったんだからな。お前なんかより緊張してたまるかと気合を入れて睨みつけてやると、怯えて体を仰け反った。
シャルルの父親がそんな姿を見たら激怒するに違いないと思うと、可笑しくなって笑った。
開始の合図とともにすぐに距離を詰めた。
お互いに剣、という名の分厚いスポンジを巻いた安全な長いやつを持っているのだが、そんなものは何の役にも立たないと、開始早々投げつけてやった。
狙いは肉弾戦。
相手の髪を掴んで頭を下げさせてヘッドロックを喰らわせた。
ヘッドロックというのは日本語にすれば頭蓋骨固め。相手の頭を脇に挟んで両手で締め付けるプロレスの技。
子供の頃はプロレスが好きでよくテレビで見ていたのでやり方は知っている、その痛さも知っている。
この技、とにかく地味なのだ。
殴ったり投げたり打ち合ったりすることもなく、ただ脇に挟んだ相手の頭を力いっぱい絞めるだけの技。
外から見ているだけだとどこがどう痛いのか、そもそも何をやっているのかすら分からないような地味の極みと言えるような技なのだ。
しかし痛い。
自分のこめかみを指で強く押してみるだけでも痛みを感じるくらいに、頭を閉められることは痛みを感じる。ヘッドロックはとにかく地味でとにかく痛い技なのだ。
ボウンサーはすぐに悲鳴を上げた。
離さない。
ボウンサーは泣いた。
離さない。
とにかく締め付けてやる。
審判である教師が止めに来てもすぐには離さなかった。
ボウンサー本人はもちろんだが、見ているほかの生徒たちにもボウンサーが泣きじゃくっている様子を見てもらわないといけない。
見せしめだ。
馬鹿な奴がこれ以上つかかってこないように「お前らもこうなるぞ」というのをはっきりとわからせたやる必要がある。
貴族は名誉を重んじる。
決闘で一般人の下級生に負けて泣きじゃくっている姿は例え子供であろうともみっともないこと極まりない姿だろう。バウンサーを応援していた生徒たちは途端に静かになって、青くなっている。
その日から馬鹿にしてくるような奴らが明らかに減った。それは自分に対してだけじゃなくて他のクラスメイトに対してもそうだ。魔臓を持たない貴族というのは他の貴族から当たり前に馬鹿にされるのだ。
それは俺がいない時でもそうなようで、言いつけられて決闘させられたらたまらないということが、馬鹿でも理解できたらしい。
しばらく休んだ後で再び学園に通いだしたバウンサーに、あの時はやり過ぎてごめん、と謝りに行こうとしたら、こっちの姿を見た途端に逃げ出してしまった。
そこに関しては少し反省をしている。
けどクラスメイトはかなり喜んでくれていたし、シャルルも嬉しそうにしていたので、それを考えればまあまあ良かったとは思っている。
やはりこの世界では強さが重要だ。
学園に通いながらも道場での稽古も続けている。もっともっと強くなろう。元の世界では強くなってもそれを使う場面はそうそうないだろうが、この世界では大いにある。だからやる気が出てくる。合間にはしっかりと鶏肉を茹でたやつを食べながらタンパク質摂取も欠かせない。
そのおかげで自分でも段々と体が大きくなっていくのを感じる。シャルルも真似して食べているし、他の道場生にも広まっていっている。
悪くない。
思っていたよりも悪くない学園生活だ。




