39話 ~クラスメイト~
周囲を見回したジェームスは、教室の中にいつもとは違うざわめきを感じていた。
それはこのクラスに今日から新しい生徒が入って来ることが原因だろうと思う。
レイ・フェリックス。
過酷と言われるワシントン学園入学の運動能力試験を一位で突破してきた生徒だ、気にならないはずがない。
今年からこの学園に一般人の生徒が入って来て、しかもそれが自分たちのクラスメイトになると知って不安だった。
けれど実際にあって話しをして見ると、一般人枠の二人は思っていたよりも親しみやすかったので安心した。
ただ、レイ・フェリックスという生徒だけは、かなり狂暴だという噂がある。入学試験で勝つために、なりふり構わず暴れまわったのだという。
しかも登校初日から授業を休んで、何があったのかと思ったら入院していて来れないのだという。それだってマフィア相手に大喧嘩をしたせいだという噂だ。
さらにはシャルル・ド・ゴールも今日からまた学園に通いだすという。最初の日に来て以来、来なくなってしまった女の子。
こちらはかなりの剣術の使い手として有名。本当ならこのクラスに入るような生徒では無いのだけど、多分何か大人の事情があるのだろう。
そのふたりが今日からこのクラスに加わる。
クラス委員長として、できればクラスメイト全員と仲良くやっていきたいと思っている。だけど剣術の腕には全く自身が無いから、もしも暴れたりしたら止めることなんて出来っこない。
心配だ。
と思っていたら鼓膜が痛くなるほどの大きな音が聞こえて、思わず椅子から跳び上がっていた。
他の生徒たちもみんなびっくりした顔をしている。
その音の原因は、教室の扉があまりにも勢いよく開けられたことにあるようだ。
開け放たれた扉には黒い髪をした少年が立っていた。テレビで見たことのある顔だ。彼が入学試験で優勝したレイ・フェリックスに違いない。
なぜだか本人もびっくりした顔をしている。
驚くくらいならそんなに勢い良く開けなければいいのに。そう思いながら見てるとその少年は気まずそうな顔をしながら教室の中に入ってきた。
少年の後ろには体を縮めながら入って来るシャルル・ド・ゴールがいる。彼女が来ることは先生から聞いていたので驚きは無いのだけど、まさか二人一緒とは思わなかった。どうやら二人は仲がいいようだ。
「驚かせてごめん」
少年がクラスのみんなに向けて頭を下げた。かなりの不良で乱暴者だという噂とはちょっと違うような気がする。
「退院してから力加減が分からなくなってるんだ。ちょっと失敗しただけでわざとやろうと思ったわけじゃないんだよ。ごめんね」
唖然とする教室。
確かに思ったより勢いよく扉を開け閉めしたことはあるけれど、あそこまでの力でやったことは無い。扉を壊そうとしたんじゃないかと思うくらいの音だった。
「僕の席はどこだろう。誰か教えてくれないかな」
これはクラス委員長として僕が言うのがいいだろう。
「ここだよ。シャルルさんの席はその隣のここ」
声を出すのには少し勇気が必要だったけどなんとかやり遂げた。
「お、そこか。ありがとう」
普通の感じでお礼を言われた。
良かった。
やっぱり噂とは違ってそれほど狂暴ではないかもしれない。
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教室に入る前から失敗してしまった。
またしても鬼の力をうまくコントロールできずにとんでもない力で扉を開けてしまった。
相当ヤバい奴が来たと思われてしまっても当たり前だ。何とか信用を取り戻さないといけない。
変な空気の中でなんとか頑張ってクラスメイトに話しかけてコミュニケーションをとっていく。
本当は注目を浴びるのは得意ではないのだが、頑張らないといけない。もともとは高校生だったんだから、小学生相手に緊張してどうすると、自分にいい聞かせて、何とか話を盛り上げ、色々な生徒と話すようにする。
こういうのは最初が肝心。最初さえがんばっていい関係を作ることが出来ればあとは何とかなるだろう。
緊張してガチガチになっているシャルルのこともカバーしつつ、少しだけでも輪の中に入れるようにする。
貴族の子供だから、プライドが高くて嫌なやつしかいないんじゃないかと思っていたのだが、今の所はそんなことは無い。
特にジェームスという生徒は礼儀正しいし賢そうだしこのクラスの中心的人物のようだから、できるだけ仲良くなりたい。
そうやって頑張っていたら知った顔を見つけた。
一般人枠で今年学園に入った生徒は全部で3人で3人ともがこのクラスにいるというというのは聞いていたが、その中に一人に得に見覚えがあった。
その席の前まで歩いて行く。
「久しぶり」
声を掛けた。
「あ、ひさしぶり、だね」
緊張した様子で笑みを浮かべたまま答えたのは太角刈りの少年。
この少年についてははっきり覚えている。運動能力試験の一番最初の競技、二人三脚で共に足を結び合ったパートナーだ。
「オクダ・サンコン君だったよね」
「何で名前知ってるの?」
驚いた顔で言う。
「表彰式の時に名前を言ってたでしょ?」
「ああ、そうか、そうだよね」
どこかぎこちない感じだが、こればっかりはしょうがない。あの試験の時の話があるから話題に困ることは無いだろう。
母が作ってくれた美味しいクッキーという奥の手も用意してきている。シャルルだって喜んで食べているから、貴族の子供だって虜にする自信がある。
男子生徒には魔道具の杖を見せてやれば寄って来るだろう。男はこういうのが大好きなのだ。
一応は考えれる限り色々と用意はしてきた。これで何とかうまいこと学園生活を送れるように頑張ろう。
こっちはもともと高校生だったんだ。人生経験が違うんだ、きっとできるさ。
ポケットに入っている犬の石像を触ると心が少し安らいでくる。
次からドアを開けるときの力加減だけは気を付けた方が良いな。あれが全てを難しくしてしまったのだから。
家で練習しよう。




