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38話 ~初登校~

 


 レイ・フェリックスは朝日輝く並木道を歩いてこの世界で初めてとなる学校へと向かう。


 王立ワシントン学園。


 この国の小等教育の中では最もレベルの高い学校で、本来は貴族や王族の子息ためのものだったが今年からは一般人でも入学できるようになった。


 俺はもちろん一般人枠だ。


 正直言ってかなり不安はある。一般人が急に入ってきたら虐めの対象になることは目に見えている。


 けれど行かないわけにはいかない。あれほど盛大に行われた入学試験で優勝してしまったのだから。なのでもう駄目なら駄目で仕方がないと逆にすっかり諦めている。



 そんな不安を抱えている俺よりもっと不安そうなのは、隣にいるシャルル・ド・ゴール様。黒髪天才剣術少女のお嬢さんは、朝から萎れた花のように元気がない。


 というのも、登校初日の学園でクラスの誰とも話すことができず、次の日から昨日までずっと登校拒否状態。道場の中での彼女の姿を知っている自分としては信じられない状態だ。


 本人としてもこのままでは良くないと思っているのか、一緒に登校することに頷いてはくれたのだけど、かなり不安なようだ。


 なんとかして明るい気持ちになるように話をしつつ進むと、道の真ん中で腕を組んで立っているやつがいた。


「おう!元気そうでよかったなレイ」


 アーサーこと第12王子アーサー・ペンドラゴンだった。


 入学試験で訳の分からない出会い方をした年上の少年。宝物庫で倒れた日から会うのは初めてだ。この感じだと、どうやら俺たちのことをここで待っててくれたらしい。


 ありがたい。


 学校生活がうまくいくかどうかは、王族であるこの方にかかっていると思っていたので、ここで出会えたのは嬉しい。


 ハイタッチを交わす。


 見ると、シャルルがより一層不安そうな顔をしている。どうやら俺は彼女という人間のことを、全く分かっていなかったようだ。


 彼女は極度の人見知りなようだ。



 知らない上級生がいる状況に緊張しているようだ。ここはなんとかアーサーという人間が味方であって、俺と仲が良いというのを示さなければならない。


 それさえ分かってもらえれば、アーサーは良い奴なので直に仲良くなれるだろう。言葉で説明するよりも、もっと直接的なやり方の方が良い。そのための素晴らしい方法を今思いついた。


 アーサーの頭の後ろに腕を回して腕力で頭蓋を締め上げる。


 ヘッドロック。


「痛っ!痛いってレイ!会っていきなり何してんだよ!」


 これは誰にでも簡単にできるプロレス技。


「おいマジで何してんだよ馬鹿!」


 足をばたつかせて抗議している声を無視してさらに絞める。


「聞いてんのか!離せっての!」


「お前の言葉なんか聞かねえよ!こっちはお前のせいで入院までしたんだ!少しくらい痛い目にあわさないと気が済まない!」


 俺が言っているのはもちろん宝物庫で鬼の骸を取り込んでしまったことについてだ。


「なんで俺のせいなんだよ!レイが鬼の骨に触ったからだろ!?俺は何にもしてないって!」


 そんなことは分かっているけどこれはシャルルに対するアピールだ。アーサーよこれは仕方のない事なんだ、尊い犠牲になってくれ。


「うるせー!俺の痛みを思い知れ!」


「痛てぇ!まじで痛てぇってば!」


 まあ、ずいぶんと大げさにやってはいるが演技みたいなものだ。声の調子からアーサーが怒っていないことは分かっている。


 これはアーサーと俺は仲がいいし、悪い奴じゃないということを分かってもらうためのパフォーマンスだ。


 シャルルの顔色を見てみれば、さっきの不安そうな表情が消えているのが分かった。


 これで学校の中に俺以外にも味方がいるということが分かるだろう。





 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




 学園への道を歩いてていると周囲からの注目を感じる。近づくにつれて生徒の割合が多くなってきた。


「やっぱり王家の威光はさすがだな」


「俺のことめっちゃ利用してないか?」


 アーサーが少し不機嫌そうに言う。


「利用してる。そしてこれからも利用させてくれ、頼む」


「お前………」


 呆れ顔のアーサー。


「そこまではっきり言われるのは初めてだよ。なんだか逆に感心するよ」


 それでも一緒にいてくれるこいつはやはり良い奴だと思う。


「気分が悪いのはわかるけど、これが庶民の生きる知恵だと思って何とか協力してくれよ。こうでもしない一般人の僕達はいじめられてしまうんだよ。ものすごくかわいそうじゃないか」


 アーサーが声を出して笑う。


「おま、お前がいじめられる!?」


 ちょっと待ってくれよ、ふざけている様でもこっちとしては本気で言ってるんだけどね。


「そんなことあるわけ無いだろ。お前はあの過酷な入学試験を勝ち抜いてきたんだから、かなり注目されているだろ。気軽に手を出したら反撃されるってビビっている奴も多いんじゃないの?」


 そうなのか?


「まあ、わかんないけどな」


 なんだよ、適当に言ってるだけかよ。


「実際にどうなるかなんて、やってみないと分かんないだろ?」


 それはそうだけど。


「ところでレイが持っているそれって………」


 アーサーが目で指し示す。


「気付いたか、さすがだな」


 教科書を入れている大きめのリュックのほかにも俺はもう一つの細長い鞄を肩にかけている。


「用心のために持ってきたんだよ」


「それって魔道具だろ?」


「そうだけどこれは安全だから」


「俺たちくらいの子供が持つことは推奨されていないんだぞ」


「それはわかるけどさ………いつプテラノドンドンが襲って来るか分からないんだから最低限の準備は必要だろ。これでもまだすこし不安なくらいなんだ」


 魔武器である金棒はさすがに家に置いてきたが、杖の方は持ってきた。これは扱いやすい割のに能力が高いのでお気に入りだ。金棒と違って使うたびに気合を入れなくてもいいから。


「アーサーは何も持ってきてないのか?」


「それはまぁ………持ってきているけど」


 やっぱお前も持ってきてんじゃねえかよ。


「シャルルも持ってきてるんだろう?」


「うん、少しだけ………」


 緊張した様子で答えるシャルル。


 本人は少しだけと言っているが、安全のために結構強力な魔武器か魔道具を持て来ているに違いない。そういうのからは独特な匂いがするからすぐにわかる。


 これに関しては、ほんの少しだけアダチのおかげかもしれないと思う。


「知らない生徒と一緒に勉強するのは不安だろうけど、こいつと一緒にいれば大丈夫。きっと守ってくれるさ」


 アーサーがシャルルに言う。


 こういう所を見るとさすがに王子だなと思う。どこか一般人にはない大らかな雰囲気を持っている。話していてもシャルルが会話に入れるような気遣いを感じる。


「そうだろ?レイ」


「もちろん。なんかあったら俺のいるクラスに来てくれよ?」


「何言ってんだよ、お前たちは一緒のクラスだろ?」


「そうなの?」


「うん。一緒」


 知らなかった。


 この学園に今年から入る一般人は同じクラスでまとめられるという話を聞いていたので、一般人ではないシャルルはきっと違うクラスだろうと思っていた。


 それでもまだ不安そうなシャルルとアーサーの肩に手を置いて3人で肩を組む。


「ちょっと何やってんのよ急に!」


 ようやくいつものシャルルの勢いが戻ってきた。


「いじめられないためだよ」


 振りほどこうとしているシャルルに言う。


「王子と仲良くしてるやつをいじめようなんて馬鹿はそうそういないだろう?だからこうやって仲いいアピールを周りにしてるんだよ」


「あ………そういうこと?」


「そうそう、戦いとおんなじさ」


「戦い?」


 得意分野の話だから興味を持っているようだ。


「戦いっていうのは戦う前の準備が大事だろ?人を揃えて、陣形を整えて、作戦を考えて敵に備える。学園生活だって同じだ」


「へーあんたって結構考えているのね」


 感心してもらってるところ悪いんだけど適当に言ってるだけだから。


「せっかくこんなに良い駒がいるんだから沢山利用してやろうじゃないの」


「だから利用とかいうなってば!」


「言葉の綾だよ、そんなこと気にするなって!」


「めちゃくちゃ気になるんだよ!」



 沢山の生徒が注目する中を肩を組んで校門を超えた。



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