37話 ~仕返し~
試合開始の合図と同時に太い金棒を持ったまま道場主のカグラ・ド・ゴールへ向けて突進する。
進む勢いと鬼の力を持って、脳天目掛けて一気に振り下ろす。
硬質な破裂音。
力いっぱいに振るった魔武器が、片手で持つ細い木刀に受け止められていた。
普通に考えればあり得ないことなのだがこの世界ならあり得る。悔しさはあるが想定内でもある。この小柄な剣術家は木刀に魔力を通し、強化しているのだ。
魔力操作の上級者になるとこういう芸当が出来る。ただの物体に魔力を通して強化して使うのだ。そうすればボールペンだろうが消しゴムだろうが立派な武器になる。
口で言うのは簡単だがやるのは実に難しい。自分の体に魔力を通すのとは比べ物にならない集中力が必要で、戦いながらそれをやることはもはや至難。
鬼の力を得て、魔武器を使い、魔力を使った今の俺の全力をいとも簡単に片手で受け止めている。さすがは道場主、剣術ガチ勢たちの中の上に立つ存在だ。
ぶつかり合う棍棒と木刀の膠着状態。
つぎはどう動くべきか、ここが重要だ。金棒は重いから振るには時間と距離が必要で、素早く次の攻撃をすることが出来ない。
もし次の攻撃を繰り出そうとしたら、次の瞬間に向こうは隙だらけの俺を攻撃してくるつもりだ。スピードと操作性は木刀の方が上、それは最初から分かっている。
ここで考えていた秘策。
自らの金棒から手を放してカグラの腕を触りに行く。
俺にとっては一番近くにある相手の体。攻撃する意識を持たず、触りに行くような感覚でいく。
これは鬼の戦い方。
鬼が人間と戦うときは拳を握らずに、掌底を使う。屈強そうな人間の戦士たちを次々と爆殺していく様子を夢の中で何度も見ている。
それを真似してみる。
鬼は自分の手の平から相手の体に魔力を通し、内部で爆発させているはずだ。なぜならばその戦士たちが身に付けている防具がそれほど壊れていなかったから。
これは夢の中の出来事を自分なりに分析してみただけであって、実際にどうなるのかは分からない。全くの見当違いかもしれない。
もうすぐ触れられるという所まで手の平を伸ばしたところで相手の体が消えた。
見ればカグラ・ド・ゴールが大きく距離をとり、驚きと不安が混じったような表情でこちらを見ている。
逃げた。
人のことを負け犬だなんだと散々言ってたくせに結局下がるのね。攻撃的な剣術はどこへ行ったんだ。
眉毛をハの字にして唇を捩じるという、腹が立つ顔でカグラを見てやる。散々煽られたお返しの顔芸を喰らいやがれ。
「貴様、何者だ………」
俺の中ではもう試合終了だ。一礼をして道場を去る。
「待て!」
声に音が重なった。
カグラ・ド・ゴールの木刀から音がしたと思ったら弾けた。どうやらいくら魔力で覆っていても背ぎきれないくらいのダメージがあったようだ。
と思ったら物凄い勢いで木刀の破片が炎に包まれた。
「うわっ!」
道場生たちが声をあげた。
高い屋根裏に到達したのではないかと思えるほどの炎の威力。幸いにして燃え広がることは無かったので良かった。しかし自分でもまさかそんなことになるとは思ってもみなかった。
そこにいる誰もが何が今何が起きたんだという表情で木刀を見た後で俺を見てくる。見られても俺にも何だか分からない。
ただ間違いなく棍棒がもたらした効果だろう。
棍棒で殴れば炎が起こる。
それを知れたことはかなりの収穫だ。なにせこれを使ったのは初めてだったから。興奮を感じながらも持ってきた鞄にしまい帰る準備をする。
背後からカグラ・ド・ゴールの声が聞こえるが無視して道場を出る。実のところ、あの一撃を打ってから頭が痛くなっている。
魔力は使いすぎると魔力欠乏症といって体にダメージを負うことがある。ひどい場合には魔臓を損傷して二度と魔力を使えなくなることもあるそうだから、今日はもう終わり。
たかが腕試し程度の事で無理をしたくはないし、散々罵倒してきた相手にいちいち丁寧な説明をしてやるつもりもない。知りたければシャルルに聞けば教えてくれるだろう。
けれどかなり格上のカグラ・ド・ゴールを下がらせることが出来たのは収穫だ。
しかももしまた「逃げるな」とか言って来たら「自分だって逃げてたじゃん」と言ってやることもできる。
言ったら絶対に怒るだろうから心の中だけで思って我慢するようにしよう。
やり返してやったのでなんだか気分がとてもいい。
背中に視線を感じながら道場を後にした。




