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31話 ~鬼の骨~

 



 賞金3千万ゴールドを無断で使ってしまったお詫びとして、宝物庫へ来たレイフェリックスだったがそこは彼のイメージしていたような場所では無かった。


「ここって本当に王城の宝物庫か?」


 レイフェリックスが聞く。


「もちろんだ。入口の所にちゃんとそう書いてあったのをレイも見ただろう?」


 赤い髪の毛をしたやんちゃそうな少年、アーサー・ペンドラゴンがあっさりと答えた。


「確かに見たよ、見たけどまさかこんな埃っぽいところだとは思わなかった」


 宝物庫というからには金銀宝石で埋め尽くされている光景を思い描いていたが、鼠色の棚が規則正しく並んでいる様子は図書館のようだ。


「ここは魔道具用の宝物庫でしかも2軍のほうだからな、まあこんなもんよ」


 2軍?2軍の宝物庫ってなんだよ。


「1軍の方は俺でもちゃんと許可を取らないと入ることもできないんだよ。マジで厳しいよな、俺だって一応王子なのにさ。信用してないのかよって言いたいよな」


「実際、信用されてないんだろうな」


「なんでだよ!ちょっとそれは言いすぎだろ」


 レイは顎をさする。


「ごめんごめん。ちょっと思ってたのと違ったけど大事なのは中身だもんな、いい魔道具があればそれでいいわけだしな」


「そうだろ?絶対良い魔道具もあるって」


 実はこの宝物庫にはいるだけでも結構大変だった。


 アーサーは難しい顔をした大人たちから「許可が必要」という言葉を、合計で50回くらいは言われていた。それでも何とか頑張ってようやくここに来ることが出来た。つまりアーサーは頑張ってくれたのだ。


「それじゃあアーサーも一緒に魔道具探すのを手伝ってくれよ」


「もちろんだよ任せとけ!レイが欲しいのは光の魔道具だったよな」


「おう!あまり大きいものはいらなくて、できれば手のひらサイズくらいのやつがいいな。普段からポケットに入れて置いて何かあったらすぐに使いたいから」


「わかった。二手に分かれて探した方が良いよな?」


「そうだな、そのほうが効率的だな」


「それじゃあ見つけたら呼ぶよ」


「頼む」


 宝物庫とは思えないほどシンプルな棚には、魔道具がぎゅうぎゅうに乗っていてちょっと触ったら落ちそうなくらいだ。そんな棚が10個以上は楽にある。


 棚に貼られたプレートには「虫よけの魔道具」と書いてあったりするので、ちゃんと整理されてはいるはずだ。そうじゃなければ探し出すのには1日では足りないだろう。


 アーサーは手前の方にある棚を探し出したので、レイは奥の方の棚へ行ってみることにした。ふたりで同じ棚を探すよりもそっちの方が早そうだ。薄暗くて埃っぽい場所だから少しの心細さはあるけども。



 それにしても独特な雰囲気だ。


 前にアダチに無理やり入れられたあの悪霊だらけの部屋を思い出す。あの時は恐ろしくて最初は立っていることさえできなかった。この部屋にそこまでの威圧感は無いが似ている感じはする。


 他の部屋に比べて明らかに寒いのだ。


 あまり長居はしなくない。けれどこれは魔道具をただでゲットするまたとないチャンスだ。アーサーは王子だからその権限で、2,3個までならこっそり持って帰れる。これを生かさない手は無いじゃないか。普通ならここには入ることすらできないわけだから。



 奥へ歩いて行くと、黒い布を掛けられた魔道具らしきものが壁際にいくつも置かれていた。恐らくここは大きすぎて棚には入れられない魔道具を置く場所なはずだ。


 魔道具と一口に言っても大きさはまちまちで、大きなものは魔道具屋で何度も見たことはある。店主はあまり大きいものは滅多に売れないと言っていた。やはり手軽に持ち運び出来て使いやすいものが人気なのだそうだ。


 レイとしても全く同じで、いざという時に使える大きさの光を放つ魔道具を探している。


 しかし一番左にあるこれは随分と大きい。いったい何の魔道具なのだろうと興味を惹かれ、黒い布をめくった瞬間に声が出た。


「なんだ!どうしたんだよ?」


 アーサーがこっちに向かってくる足音が聞こえる。


「これ………」


「ん?ああそれか!」


 アーサーは驚いていないので、前に見たことがある物のようだ。


 それは頭蓋骨の無い黒い骨格標本。


 腕、肋骨、背骨、骨盤、足。頭部が無い以外は人間が持っている特徴を持っているので似ているようにも見えるが明らかに骨格が大きい。肋骨には薔薇のようなトゲが付いている。


「背骨が炎みたいだ」


「おお、言われてみれば確かにそうだ。何かに似ていると思ってたんだけど炎の形してるな」


 もしこの生物が実際にいたとしたら人間よりもはるかに強い生き物だろう。


「これ面白いんだぜ?爺さんが若いころにベドゾーマ共和国のオークションで買ってきたんだ」


 ベドゾーマ共和国というのは今はもうなくなった昔の国の名前。世界の超大国と呼ばれるほどの軍事力と経済力を持っていたらしい。


「爺さんということは前国王か」


「そうそう。買ったのは王子の時だったけどな」


 楽しそうに話す。


「その時のベドゾーマ共和国は戦争とクーデターでボロボロで国が崩壊する少し前だったんだとさ。だからその前に国中から金になりそうなものを集めて、片っ端からオークションにかけて少しでも金にしようとしたんだってさ」


 こいつ………アホだと思っていたのだがちゃんと賢い。笑い話の中にも、教科書に載っていない事情をちゃんと理解して話している。


「爺さんはそのオークションに恋人に渡す誕生日プレゼントを買いに行ったんだよ。さすがに超大国と言われてただけあってかなりいいものが出品されててさ、爺さんの狙いは王族が着けてたデカい宝石がいくつも付いたネックレスだったらしい」


 そんなものまで出品するとは、その時のベドゾーマ共和国は相当にやばい状況だったんだろう。


「そんでここからが傑作でさあ………」


 堪えきれないといった感じで吹きだした。


「ネックレスのオークションが始まる前の日に出品された珍しい酒を大量に落札しちゃって、手に入った途端に大宴会始めちゃってさ、酒の飲み過ぎでネックレスのオークションをすっぽかしちゃったらしいんだ」


 前王の話は俺も聞いたことがある。


 当時から街で噂になるくらいの酒と女好きだったらしい。かなり気さくな人だったようで、ちょくちょく城を抜け出して、一般人と大騒ぎしながら酒を飲んで、飲み過ぎて床で寝ているところを、探しにきた騎士に担がれていったという話を聞いたことがある。


「それでさぁ、慌てて次の日のオークションに行ったんだけど、宝石のオークションはもう終わって、その日からは魔道具のオークションだったんだ。それで爺さんが落札してきたのがこれ、「鬼」っていう魔物の骨格標本だ」


 鬼。


 この世界にも鬼はいる。


 非常に強力な力を持っていて現れると必ず人間に大きな厄災をもたらすと言われている伝説級の魔物。


 そうだ、確か本にも書いてあった。100年くらい前にベドゾーマ共和国にあらわれて何千、何万という人を殺したって。


「爺さんはこれを見た瞬間にテンションが上がっちゃったんだ。それで散々競り合った挙句に落札したんだけど、もう財布はスッカラカンになったんだってよ。それでしょうがないから恋人の誕生日プレゼントにこれを渡したらしいんだ」


 どうしてそんなことを思いつくんだろう。落札できなかったとか適当に嘘を付いて違うネックレスを渡せばいいものを。


「そしたら恋人、後に結婚したうちの婆さんの事なんだけどさぁ、ものすごい怒っちゃってさ」


 そりゃあ怒るだろう。


「オークションに行く前にベドゾーマ共和国で一番いい宝石を買ってきてプレゼントするから結婚しようってさんざん口説いてたらしいんだよ」


 うわぁ。


「それで買ってきたのが「鬼」だろ?婆さんは見た瞬間に怒り過ぎて顔が真っ白になって、愛用の魔武器の薙刀を持って爺さんのことを一日中追い掛け回したらしいんだよ」


 怖っ。


「爺さんはスラム街のほうまで逃げていったんだけど、どこに逃げても婆さんはすぐに見つけ出して、家とかぶっ壊しながら暴れまわったんだってさ、な、面白いだろ」


 確かに面白い。


 年を取った人は懐かしそうな顔をして前王の話をしているから、今でもよほど好かれているんだろうとは思っていたが、こういう話を聞けば好きになるだろうな。


「これにするか?」


「絶対しない!」


 確かに面白い話だと思うが、いるかいらないかで言えば別。


「なんでだよ、めっちゃ面白いぜこれ。婆さんは二度と見たくないって言ってるから、もうずっとこの奥にいるんだよ。それでさぁ、こいつ夜中によく鳴くらしいんだよ、なんか悲しい思いがあるんだと思うよ。一緒にいて慰めてやれよ」


「ふざけんな!」


「ちぇっ、」


 残念そうに舌打ちをする意味が分からない。こんなデカくて夜中に鳴くようなものを持って帰ったら俺が母親に追いかけまわされるわ。


「これ本物か?」


 気になった。


「なんで?本物に決まってるだろ」


 前世だと寺に古くから伝わる人魚のミイラが、最近の調査で魚とかで作った偽物だったことがわかった、というニュースを見たことがある。


 レイにとって「鬼」というのは人魚と同じくらい空想上の生き物だ。


 指を伸ばし触れてみた。


 爪の先に当たってカツン、という小さな固い音がでた。


 その瞬間。


 鬼の黒い骨は甲高い音と共に急激に震えだした。




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