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29話 ~再会~

 

 歴史ある王城の中の石造りの一室には緊張感が張り詰めている。


 真新しい制服を着たレイ・フェリックスが緊張した面持ちで、ぽつんと置かれた椅子に座っている。


 王立ワシントン学園の入学試験で優勝し合格したことで、その栄誉を称えた記念メダルと優勝賞金3千万ゴールドを授与されるためにやって来た。


 シャルルの祖母のアダチによればこの授賞式は本来予定に無く急遽決まったことらしい。どうりで知らなかったはずだ。国の偉い人が言いだしたのだろうか?ずいぶんと面倒なことをしてくれるものだ。


 かなり緊張している。


 付け焼刃の礼儀作法でこの場を乗り切れるかどうかがすごく不安だ。さらに室内にはビシッと直立した騎士が立っているせいで緊張感を感じる。


 もちろん彼らは立派な剣も持っているから普通に怖い。前世で5人の男に刺されて死んだレイとしては、その時の事を思い出してしまう。


 燕尾服を着た爺さんが立派な扉から入ってきた。


「これから王立ワシントン学園入学試験の優勝者への記念メダル授与式を始める」


 室内の緊張感がさらに張り詰める。急に首の後ろが痒くなってきたが掻くわけにもいかず、首を少し後ろにそらしながらさりげなく左右に振って誤魔化そうとするが効果は一向に無い。


 横の扉が開いて何人かの人が入って来る。


 この部屋の中に入ってからも結構待たされたがようやく始まるらしい。記念メダルを渡すくらいでこんなに大事にしなくても、と思っていたら一番最後に入ってきた人間に違和感を感じた。


 子供のように背が低い。


 見たことのある顔。


「よお!元気かレイ」


 赤い髪をしたやんちゃそうな顔。


 こいつは、あの入学試験の最終種目「腰紐奪い合い対決」の時、俺のやり方が「卑怯だ」と文句を付けてきた学園の生徒だ。


 なぜこいつが………。


「驚いたか!」


 そりゃあ驚くだろうよ。ここは王城だ、それなのになんでお前が入ってくるんだよ。


「ここにおわす方をどなたと心得る。第12王子アーサー・ペンドラゴン様にあらせられるぞ。頭が高い。控えおろう」


 一緒に入ってきた燕尾服を着て髭を生やした、いかにも執事みたいな爺さんに水戸黄門みたいなことを言われたのですぐに頭を下げる。


 下げてから思うが、王族に頭を下げるのはしょうがないにしても、なんでこの爺さんに命令にされなきゃならんのだこの野郎。


「頭をあげていいぞ」


 見るとアーサーは笑っている。


「今日はずいぶんと静かだな、前に会った時と全然違うじゃないか」


 そう、実は俺はこいつが入ってきてから、というより王城にの中に入ってからほとんどしゃべっていない。


「はい」とか「ありがとうございます」くらいの必要なことだけ。「沈黙は金」という言葉ある通り、こういう時には余計なことを喋らない方が良いと思っている。


「堅苦しいな。二人だけで話そう」


「それはーーー」


「いいからいいから、こいつは大丈夫だから」


 遮ってきた髭執事に向かってアーサーが手を振る。


 それから多少の押し問答はあったが結局、レイとアーサーは二人だけがいる部屋へと移ることになった。



「どうだレイ、これなら話しやすいだろう?」


 アーサーが笑いながら話しかけてきた。


「まさか王子だとは思わなかったな」


「そりゃあ、あの時は気付かれない様にしてたからな。そうしないと受験生はやりづらいだろう?」


 というか王子のくせに入学試験の競技なんかに参加するなよ、と言いたい。


「この授与式はアーサーが言いだしたのか?」


「そうだよ、レイと話してみたかったからね」


 こいつ………余計なことを。お前のせいで朝から椅子の座り方から、メダルの受け取り方から色々やらされたんだぞこの野郎。


「その服全然に合ってないぞ」


 これくらいは言ってやらないと気が済まない。


「お、やっぱり調子が出てきたな」


 アーサーは笑った。


「自分でも似合ってないのは分かってるよ、けど着なきゃしょうがないんだよ。今日は王子としての役目だからな」


「それで、一体なんの用なんだよ」


 わざわざこんな場を設けてまで話したかったこととはなんだ。


「別に。会って話してみたかっただけ」


 は?用は無いのかよ。


「勝負もまだ付いてないし」


 勝負?多分アーサーはあの競技の時に話したことを言っている。腰紐を50本集めてきたら男と男の勝負をすると言う話だ。改めて考えてみても自分でもなぜそんなことを言ってしまったのか覚えていない。


「がっかりしたよ。せっかく勝負だと思ったのに競技終了の合図が鳴っちゃうんだもんな、レイに騙されたよ」


「別に騙しては無い」


 そもそもあの競技の時に相手の背後に回りこんで腰紐を取っている俺を見てこいつが「卑怯だ」と言い始めたのがきっかけ。何も卑怯なことは無いと今でも思っている。


 卑怯か卑怯じゃないか決めるために勝負をしようと言って追い払ったのだが、ちゃんと勝負をするつもりはあった。そんな時間が無いのは知ってたけど。


「あれから俺もよく考えたんだけど、あの時のお前のやり方は当然っていうか、当たり前の作戦だなって思った」


 そりゃそうだろ。真正面から行くだけが勝負じゃないんだから。


「それが言いたかったのか?」


「それもある。卑怯者扱いしちゃって悪かったな」


 謝れることは立派だが、そのためにわざわざこんな場を用意しないで欲しい。一般人としてはものすごい疲れるんだよな。


「わかったよ。それじゃあ早く賞金とメダルをくれよ」


「なんだよ、せっかく会えたのにもう帰るつもりかよ」


 当たり前だろう、こんな堅苦しさの権化みたいな場所からはとっとと帰りたい。今だってきっと護衛のやつが聞き耳を立てているはずだ。だから俺は小さな声でしか話さない。


「話なら後から学園でできるだろ?こっちは緊張のせいで汗でベトベトなんだよ。だから賞金とメダルをくれ」


「ちぇっ、」


 舌打ちをしている姿を見ていると王子と言えども子供だな。


「賞金とメダル」


 個人的にはメダルは別にいらないが持って帰らないと後で何を言われるか分からない。ただ、賞金だけは絶対に欲しい。あれだけ大変な思いをしたんだし、欲しい魔道具も山ほどあるんだ。


「それなんだけどさぁ………」


 アーサーが言いずらそうに言う。


「賞金の事」


 嫌な予感がする。


「なんだ?」


「悪りぃ!あれ、さっき使っちゃった」


 手の平を合わせて軽く謝られた。


「はぁああああああ!?」


「なんだよ急に大声出すなよ!」


「出すに決まってんだろ。俺の金だぞ!?」


「いやでもさ、しょうがないんだよ」


「何がしょうがないんだよ」


「だから落ち着けって」


「落ち着けるか!」


 3千万だぞ3千万!そんな大金を勝手に使われたら誰だって落ち着いていられるはずないだろうが。


「だからそれを今から説明するから、落ち着けって」


 なんだこの俺がなだめられなきゃいけないんだよ。


「聞けばお前も納得すると思うよ」


 俺の肩に手を置くな。


「本当だろうな?」


「本当本当、間違いない」


 絶対に納得なんてするわけないと思うが一応聞く。




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