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28話 ~授与式へ~

 


 王立ワシントン学園の試験が終わってから三日が経った。


 レイ・フェリックスはその間一度も道場に通うことなく、食って寝て魔道具屋巡りをすると言う怠惰な生活を繰り返していた。


 自分の部屋で足の爪を切っていると母のアイラ・フェリックスが呼んでいる声がするので、行ってみるとそこには黒髪天才剣術少女ことシャルル・ド・ゴールがいた。


「どうしたんだ?」


 そう問いかけるとシャルルは驚いた顔をした。


「どうしたじゃないわよ、なんで急に道場に来なくなったのよ」


「それは………気力体力の限界で」


 理由は特に無い。


 恐ろしいほどに大変だったあの入学試験が終わってからは、体を動かす気になれなくてずっとボーっとしていた。自分では燃え尽き症候群みたいなものだと思っている。


 しばらく休んでいればまた気力が回復してくるだろうから、それまでは何もしないでおこうと思ったわけだ。


「訳の分からないこと言ってないで良いから来なさいよ」


 おおシャルルよ、ずいぶんと必死じゃないか。もしかして俺がいなくて寂しかったのかい?かわいいやつだな。


「何よその目は、あんたなんか変なこと考えてるでしょ」


「そんなことは別に………」


 言葉にせずとも何かが伝わってしまったようだ。


「わかったよ、それじゃあ明日から道場に行くよ」


「明日じゃなくて今日来なさい」


 ずいぶんとせっかちだな、そんなに焦らなくても俺は逃げないぜ。


「今から準備して王城に行くのよ」


 王城?


「道場の間違いだろう?なんで王城に行くんだよ」


「間違いじゃないわよ。あんたこの前、学園の試験で優勝したじゃないの」


 したよ。


「だから「優勝おめでとう大変良く頑張りました」っていうことで国が王城でメダルを授与してくれるんだって。だからありがたく受け取りに行くのよ」


 メダルを受け取るためにわざわざ王城へ?


「郵送とかでもいいんだけどな」


「何馬鹿なこと言ってるのよ」


 ごめん。


「だから私の道場で授与式の練習をしてあげるから来なさいって言ってるの」


 授与式の練習?それって必要か?けど卒業式にも練習があるわけだからそれみたいなものか。


「そうなんだ」


 けっこう面倒だな。


「そうよ。ちゃんと衣装も準備してあるんだから」


「衣装?」


「まさか普段着のまま王城に行くわけにもいかないでしょ」


 そう言われてみれば確かにその通りだ。


「どんな衣装なんだ?」


「制服よ。ワシントンの制服」


「制服って、まだ合格したとか聞いてないんだけど」


「合格の書類ならうちの方に来てるわ」


 なんで?


「受験の時の書類にはうちの道場からの推薦っていうことにしてるから」


 なるほど、納得だ。


「あんたが道場に来ないから渡せなかったんでしょ」


 なるほど、納得だ。


 というかいつの間にかすっかり王立ワシントン学園に行くことで決まってしまっている。


 一般人の受け入れは今年からだから、いま王立ワシントン学園にいる生徒のほとんど貴族と王族なはずだ。絶対に虐められると思う。身分が違うとか言われてさ。


「というか賞金はどうなったんだ?」


 一番大事なのがこれだ。


「金が無いと魔道具が買えないんだけど」


 魔武器にしても魔道具にしてもかなり高価なので、今欲しいと思っている光を出す魔道具でもいいものは何百万もする。


「わかんない」


 おい。


「私に聞かれてもわかんないけど、もしかしたらメダルと一緒にくれるのかもしれないわ」


 それが本当なら行くしかないか。


「わかったよ」


 面倒ではあるけれど、これは王城の中に入ることができるチャンスではある。当たり前だけど用のない一般人は入ることが出来ない場所だ。


 遠くから見たことだけあったのだが、テレビで見たことのあるヨーロッパのお城という感じがしていて、一度くらいは中に入ってみたいと思っていたのだ。


 なかはきっとフカフカの赤い絨毯が敷いてあって高価な絵画とか壺とかいろいろ置いてあるに違いない。もしかしたらきれいなお姫様がいたりするのかも。


「それじゃあ頑張ってきてねレイ」


 隣で話を聞いていた母のアイラ・フェリックスが言った。


「もちろん一緒に来てくれるよね?」


「それは無理よ」


 即座にはっきり答えた。


「私は今日はとてもとても頭が痛い日なの。王城で偉い人たちを前に堅苦しい授与式なんかに参加することは全然できそうにないわ。というわけでメダルはレイひとりでもらって来てね」


 にっこり笑う。


「ちょっと待ってよ。さすがにそれは無茶じゃない?」


「無茶じゃないわ。レイはとてもしっかりしてるから、それくらいの事は一人で簡単にやってのけるわ。私はレイのことをものすごく信頼しているの。わかるでしょ?」


 わかんないよ。


「賞金だけはしっかり貰ってくるんですよ」


 どうやら我が母上は自分は行きたくないけど賞金は欲しいという俺と全く同じ意見らしい。


 だけど前世では高校生だったとはいえ一応今は6歳なんですよ?ひとりで王城に行って授与式でメダルをもらって帰って来るなんて、初めてのお使いにしてはハードすぎるミッションじゃないですかね?


「シャルルも一緒に来てくれたりとかは………」


 一応聞いてみる。


「何言ってんのよ、行くわけないでしょ。家族でもない私が一緒に行っても意味が分かんないわよ」


 それはそうだけど………。


「王城なんて今まで行ったことも無いんだけど」


「午後から王城の使いの人が来る予定になってるから、その人と一緒に行けばいいから心配ないわよ。それまでは授与式の練習よ、賞金欲しいんでしょ?それなら行くしかないわよね?」


 それはそうだけど………。


「ほら、早く」


 シャルルに手を取られ攫われて行くレイを、母はにこやかな笑みで見送っていた。





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