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26話 ~優勝~

 


 腰紐奪い合い対決が終了して、席に戻ってぐったりしていると突然アナウンスが始まった。


「皆様お疲れ様でした、これを持ちまして第一回 王立ワシントン学園一般入試運動能力試験の全競技を終了させていただきます」


 やった、ようやく終わった。というかあれが最後の競技だったか?


「確かもう一個種目があったような気がしたけどな」


「あああれね、えーと………「巨大猛牛追いかけられ対決」のことね」


 なんだそのとんでもない競技は。


「なんか中止になったらしい。巨大猛牛が脱走したんだって」


 黒髪天才剣術少女のシャルルが言った。


 危なかった。本当はそんなのをやらされるところだったのか。しかも明らかにテレビ局が考えたような競技じゃないか、視聴率が欲しいからと言ってやり過ぎだろ。


「これでようやく終われるんだ、長かったよ」


 朝からとんでもなくハードだった。他の参加者の様子を見ても紫色の顔色をしてヘドロのように横になっている子ばかりだ。


 わかるぞ。朝から面接やってテストやって、で色々な競技をやったもんな。しかも親から物凄いプレッシャーを受けてだ。大変すぎる一日だったよな。



「それでは今から成績上位者10名の表彰式を執り行わさせていただきます」


 表彰式!?


 そんなものがあったのか。


「いまから読み上げます受験番号の参加者は上位10名にランクインしていますのでどうぞ特設ステージにお越しください」


 405番。俺の番号が呼ばれた。


「やったじゃんレイ!問題は何位なのかよね」


「表彰式って辞退とかはできないよな?」


 無理だろうと思いつつも試しに言ってみる。


「何言ってんだい」


 これまでただ静かに競技を見ているだけだった鬼婆ことアダチ・ド・ゴールが、睨みつけるような表情で言った。


「あんたが受験に参加するための書類はうちの道場からの推薦という形で出しているんだから、おかしな真似をしたらうちの道場の名に傷がつく。絶対に出てもらうよ!」


 そんなに怖い顔しなくても分かってますよ。


「なお、成績上位者10位から5位までの参加者には100万ゴールド、5位と4位は300万ゴールド、3位には500万ゴールド、2位には1,000万ゴールド、1位には3,000万ゴールドの賞金と記念の盾と賞状が贈られます。皆様もどうぞ特設ステージまでお越しください」


「賞金!」


 そうだった、パンフレットにも確かにそう書いてあったんだった。盾と賞状はいらないが金は欲しい、10位でも100万ゴールドも貰えるのは大きい。これは行くしかないな。


「よし行ってくる!」


 何を買おうか。


 この世界は前世では見たことが無いものが山ほどあるから、欲しいものがいっぱいあるんだよ。うちだってある程度は裕福だが、好きなものを何でもかんでも買えるわけじゃない。


「さあ、早くいきなさいレイ。盾と賞状はともかく賞金だけは貰いそびれてはいけませんよ」


 お、おう。


 やっぱりうちの母親もそう言っている。本人は微笑んでいるつもりかもしれないが、金に対する欲望で顔に迫力が出てしまってちょっと怖い。



 受付へ行くと特設ステージへ上るようにと案内される。


 そこには10脚の椅子。この椅子に1位から10位までの参加者を座らせてみんなが見ている前で順位の発表をするようだ。


 ステージに上がると拍手や歓声が聞こえたので、一礼してから椅子へ一直線に進む。もうすでに先に座っている参加者の表情はガチガチだ。


 分かるよ。


 滅茶苦茶緊張するよな。大勢の人に見られているし、これだけ頑張ったんだから優勝したい。しかもそれだけではなくて、ステージの上にはテレビクルーがいてデカいカメラで参加者を撮影しまくっているのだ。もう勘弁してくれよと思うが、それでも賞金はとんでもなく欲しい。


 優勝すれば3,000万ゴールドだ。


 街に張ってあるバイト募集のビラにはだいたい時給900円くらいで書いてあったので、1ゴールドは1円位の価値だと思っている。そう考えれば3,000万というのはかなりの大金。


 式が始まった。


 この学園の偉い人っぽい人たちが堂々とスピーチをしている間、欲しい魔道具の事ばかり考えていた。


 魔武器や魔道具には悪魔の魂が憑いている。


 鬼婆によって悪霊の住処に連れ込まれて、とんでもない目にあったことを忘れたわけではないが、やっぱりそれでも欲しい。


 あれから調べた限りでは、人の悪影響を及ぼすほどの強力な悪魔は、強力な魔武器に憑いていることが多く、それに比べれば魔道具はまだ安心だという話だ。


 やはり魔武器や魔道具には浪漫がある。


 だけど悪魔は嫌。それならとりあえずは魔道具だ。強力な魔武器にもまだ興味はあるが、それは大人になってからでいいだろう。


「それでは皆さんお待ちかね、栄えある順位発表に移らさせていただきます」


 いつの間にか偉い人の話は終わっていて、いよいよ結果発表が始まってた。


 ドキドキする。


「まずは10位から5位までの発表です!」


 ここの賞金は確か100万だったはず。


 ここは嫌だ。


「第10位………」


 祈りながら待っていたら10位から5位には名前を呼ばれることは無かった。


 嬉しい。


 賞金が高くなるのはここからだから何としてもこれ以上がいい。できれば優勝。そう思うと最初の二人三脚のビリが痛い。どうしようもなかったとはいえもっといい順位を取っておきたかった。


「続いては5位の発表です!」


 5位にも、そして4位にも名前を呼ばれなかった。


 ということは1位、2位、3位のどれかだ。


「それではここから第一回 王立ワシントン学園一般入試運動能力試験、上位3名の発表になります」


 3位は500万、2位は1,000万、そして優勝は3,000万だったはずだ。こうなるともう500万が安く感じる。


 3位だけは嫌だ。


「第3位。オクダ・サンコン選手!」


 良かった、3位じゃなかった。


 あら?


 今までと違って参加者の誰も椅子から起立しない。よく見たら席が一つ空いているじゃないか。誰かひとりは表彰式が嫌すぎて逃げたのか?


 そう思っていたら、太った角刈りの少年がどたどた足音を立てながら階段を登ってきているのが見えた。


 あいつは………俺の二人三脚のパートナーだ。


 大事な一種目目の一歩目で転んで膝をすりむいて、結局ビリになったアイツじゃないか。オクダ・サンコンという名前だったのか。


 司会者の説明によればどうやら彼はトイレに行っていたらしい。


 椅子に座ろうとしたところで、賞状を受け取ってくださいと言われて、右往左往して会場から笑いが起きている。


 わかるよ、緊張するよな。


 と思っていたら賞状を受け取った途端に少年は泣き始めた。どうやら相当嬉しいらしい。一番最初に二人三脚でビリというスタートからかなり頑張って巻き返してきたのだろう。


 そんな少年の姿を見て、観衆が感動しているのが伝わって来る。



「それでは気を取り直しまして第2位の発表です」


 緊張感が一気に高まる。


 2位は1千万、1位は3千万だ。ここまで来たら絶対に3千万が欲しい。頼む、頼む、頼む。


「第2位。ハチメ・リョウジ選手!」


 やった!


 椅子から立ち上がって賞状を受け取る背の低い少年の姿を見ながら、茫然としている自分に気が付いた。いざ優勝したとなると現実感が無かった。


「というわけで、栄えある第一回 王立ワシントン学園一般入試運動能力試験優勝者は………レイ・フェリックス選手です!」


 立ち上がると会場から大歓声が起きた。


 全身から汗が噴き出す。


 テレビカメラがものすごい近くまで迫ってきた。近すぎだろ。そんなに寄るな。


 なんとか無表情を取り繕って表彰状を受け取る。そして振り返った時の光景を見て鳥肌が立った。


 ステージという高い所から見ると、大勢の観客は波のようだ。


 手を振ってくれている人達の顔は笑顔。歓声の中から「がんばったな」とか「ありがとう」とか「感動した」とか、色々な声が聞こえてくる。


 嗚呼、良かった。


 自分で望んで参加したわけではなかったし、表彰式からも逃げたいと思っていたが、いざこうやってたくさんの人に祝福されていると今までに感じたことのない嬉しさで体が満たされる。


 認められた。


 こんな感覚は前世でも感じたことは無い。スポーツ選手はこの一瞬の喜びのために毎日大変なトレーニングに取り組んでいるのだろうな、と想像できる。



 嬉しくて、鼻の奥がツンとして涙が出そうだった。





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