25話 ~終了~
テレビ局が考案した「腰紐奪い合い対決」という競技のせいで柵の中は阿鼻叫喚の争いとなっている。
泣き声や怒鳴り声は当たり前で鼻血を出している参加者もいる。これのどこが受験なんだといいたい。こんなものを考えたやつの髪を全て毟ってやりたい気分だ。
しかしながら勝負には勝たなければならない。盛り上がっている場所から距離を置いて十分に休息をとったところで動き出す。
参加者同士が腰紐をめぐってレスリングをしているところにそっと忍び寄って腰紐を奪う。「あっ!」ッという声が聞こえたが無視、もう片一方の参加者の背後に回り込んで腰紐を奪う。
寝っ転がっているやつよりも立っているやつの方が移動速度は速い、これは常識だ。しかもここまで勝ち残っているやつらだけに腰紐を大量に持っていた。
よしよし、作戦通り。
続いて、立ったまま取っ組み合っているふたりの背後に忍び寄って背中を押す。すると片方が倒れて、それに巻き込まれたもう片方も倒れる。後はさっきと同じ、地面の上を転がっている隙をついて奪う。
またしても大量ゲット、計算通りだ。
何が計算通りなのかと言えば参加者はみな、疲れ切っているということだ。
自分も全く同じ状況なのでよくわかるのだが、受験生は朝から面接、テスト、作文、二人三脚、玉入れ、徒競走と散々頭も体も神経も使って来ている。そこに来てこの過酷な競技。
しかも6歳。疲れていないわけは無いのだ。いくら頑張る気があろうとも足の筋肉はプルプルで少し押されただけで簡単に倒れてしまうのが当たり前だ。
ほっほっほ!
奪った腰紐を自分の腰に括り付けていると一人の少年が目の前に立った。少年と言ってもそれは前世で高校生だった俺から見た少年で、少なくとも6歳より年上であることは間違いない。
赤い髪の毛を逆立てた鼻に絆創膏を貼った少年。
少年漫画から飛び出してきたようなやつで、腰には上級生を示す5Pの赤い腰紐を付けている。
「おいお前、さっきから卑怯なことばっかりしてるじゃないか!」
なんだこいつ。こんなことは卑怯でも何でもない、少し考えれば誰でも分かる当たり前の戦略じゃないか。
けどまあ思っていることは言わない。佇まいからして疲れ切った他の参加者に比べて明らかに厄介そうな雰囲気を出している。
無視して走る。
「おいちょっと待てよ!」
待つわけがないと思いつつ振り返るとそいつはかなり速かった。
くそ。
さっき参加者は疲れ切っていると言ったがそれは俺も同じことだ。俺の足もぷるぷるで調子のいい時に比べたら段違いにスピードが出ない。
まずい。
このままだと追いつかれる。
俺は走るのを止めた。
「なんだお前急に止まりやがって、まずは俺の話を聞け!」
声の感じからしてもまだまだ元気そうだ。こいつはこの競技から参加しているのだから体力の消費が違いすぎる。
「さっきから見てたらお前!他のやつの後ろからこっそり腰紐を取ってるだろ!」
だからなんだ。
「こういうのは自分の実力で勝たないと意味がないんだよ!」
ちゃんと自分の力でやっているつもりなんだが。自分の力で忍び寄ってタイミングを見て奪う。これが自分の力じゃなくて誰の力なんだ。
「わからない」
そのまま素直に言ってみる。
「分からないってなんだよ!何がわかんないんだよ、簡単だろ!?」
分からないって言ってるんだから分かるように説明しろや、怒って攻撃して来たら面倒なので思っても言わないけど。
「そんなこと言いながら結局は俺の腰紐を奪うつもりだろう」
「はぁ!?」
「お前は自分の腰紐しか持ってない。今までどっかで寝てて最後に美味しい所をかっさらうつもりで来たんだ。そうに決まってる!」
「そんなわけないだろ!俺はお前たちに上には上がいるんだぞってことを教えるためにやってるんだよ!」
「嘘だな」
「嘘じゃない!」
ムキになっている。
「だってお前は文句を言っているだけじゃないか」
「それはお前が卑怯なことをしてるからだ。まずはそれを注意してから、上には上がいるんだぞって教えてやるつもりだったんだよ」
「信用できないな。さっきからお前はチラチラ俺の腰紐を見ているじゃないか」
「別に見てないって!」
「話をしたいのならまずは俺のことを信用させてからだ」
「なんだと!?じゃあどうしたら俺の事を信用するんだよ」
どうしたら?どうしたらってそりゃあ………。
「いまから腰紐を50本集めてこい。それなら大体俺と同じ本数になるから、そしたらそれを賭けてお互いに正々堂々勝負だ!」
「そうしたら俺の事を信用してくれるんだな?」
「もちろん。男と男の約束だ!」
「男と男の約束………初めて聞いたけどずいぶんかっこいい言葉じゃねぇか。気に入ったぜ!」
そうか?俺は何回も聞いたことがあるコピペみたいな言葉だと思うけどな。
「待ってろ!今すぐに腰紐50本集めてくるぜ!」
「その前に名前を教えてくれ」
「名前?なんでそんなこと聞きたいんだよ」
「お前とはライバルになる気がする」
「ライバル!?ライバルか、確かにそうかもしれないな」
嬉しそうに言う。
「俺の名前はアーサーだ!お前は?」
「レイ」
「レイ、か。待ってろレイ、俺はすぐに戻って来るからな!」
走り出した少年の背中を見つめる。
大成功。
自分でもよく分からないことを言ったが、そのおかげで面倒くさそうなやつを追い払うことに成功した。
残り時間はほとんどないのに今から腰紐を50本も集めれるはずがない。一息ついてから、倒れている参加者の背後に回り込んで腰紐を奪った。
やはりみんな疲れ切っている。
散々奪ったところで終了のゴングが鳴った。
「よし、乗り切った………」
レイは大量の腰紐を持ったまま、疲れの中にも満足げな笑みを浮かべた。




