23話 ~ルール~
結構長い間待たされた後で会場にアナウンスが流れる。
「えーみなさま、お待たせして大変申し訳ございません。ルールについて詳細が決定いたしましたのでまずはその報告をさせていただきます」
会場中からようやくかというような声が聞こえる
「従来通り急所への攻撃は禁止ですが後頭部への攻撃も禁止です。さらには場内に多数の審判員を配置いたしますので、審判が危険と判断いたしましたらすぐさま戦いを止め、敗者が勝者にすべての腰紐を渡すことといたします。審判に従わない場合はすべての腰紐を没収いたします」
ざわめきが聞こえる。
「なおこの「腰紐奪い合い対決」では参加者全員が設置してあります柵のなかに集まって一斉に競技を行います。応援の方は柵の中に入らないように注意してください。それでは参加希望者は急ぎ集まってください」
立ち上がったところで違和感を感じた。
今までさんざん気合を入れてきていたシャルルがやけに静かなのだ。疑問に思いつつも行ってくるといい残して会場へ向かう。
今までは背中を叩いて気合を入れられる度に、痛いだけだと思っていたのだけど、いつの間にかそれが無くないと寂しい体になってしまっていた。
もやもやしながら会場へ向かう。
さすがに人数が多い。1500m走以外は少人数での戦いだったから実感が薄かったがちょっとしたコンサート会場くらいの人数はいる。これだけの人数が集まって競技をして、しかも攻撃OKとなれば地獄絵図になるんじゃないのか。
受付に到着して受験番号を渡すと、青い腰紐を渡された。これを腰に結わえてお互いに取り合って取った腰紐は同じところに結わえるというルールなのだそうだ。
なるほど。
ということは調子に乗って腰紐をたくさん取ると目立つから、他の参加者から狙われるということだ。一本しか腰紐を持っていないやつを狙うよりも、たくさん持ってるやつを狙ったほうが効率的だからな。
この競技は今までとは違った戦略が必要になるな。
「みなさまーー!ご覧ください、ぞくぞくと出場者の皆さんが集まっていますねー!」
最悪なことにテレビクルーもいた。
緊張が張り詰めたところに場違いな甲高い声が響き渡っている。というか競技の前に話しかけてくるなよ。みんな緊張して集中しているんだぞ。
「皆さん緊張した面持ちです。この競技の結果次第で王立ワシントン学園というこの国で最も格式の高い学校へ入学できるかどうかという勝負ですからねー!さあ、さっそく近くにいるこの少年に話を聞いてみましょう!さあ、どうですか!緊張していますか?」
坊主頭の少年が捕まっている。
これはテレビ局が考案した競技だというから今までよりも一層張り切っているように感じてムカムカする。殴り合いOKにしてまで視聴率が欲しいなんて、こいつらは本当にろくでもない奴らだな。
しかも「緊張してますか?」って質問はなんだよ。薄っぺらいんだよ。してるに決まってるだろ、お前ら馬鹿か?
カメラクルーから離れるように移動する。
アナウンスで言っていたように、審判らしき大人をちらほら見かけた。けれど参加者の人数に対して審判の人数が少ない気がする。
急遽決まったからしょうがないのかもしれないが、これでちゃんと公平にジャッジすることが出来るのだろうか。格闘技だったら選手二人に対して審判ひとりなんだけどな。
「ここで追加ルールを発表いたします」
追加ルール?
周りも騒然となっている。
「どうぞお入りください」
すると柵で囲われた中に人の列が入って来る。どう見ても受験生よりも年上の子供と大人。
「いま入場したのは我が学園の生徒と教員になり、この競技には彼らも参加します」
歓声が上がる。
「受験生の皆さんがいま巻いている青い腰紐、これは1Pです。それに対して生徒が巻いている腰紐は赤色で5Pとなります」
たしかにいま入ってきた子供たちは受験生より年上に見える。その分だけ腰紐を取るのが大変だから5P貰えるというわけだ。
「今までに行ってきた徒競走などの各競技の一位に与えられるポイントが5Pですからそれと同等ということになります。ですから今まで結果が振るわなかった受験生にとっては非常に大きなチャンスとなります」
更に歓声。
「さらに、教員が巻いている金色の腰紐。これをとることが出来れば、競技終了を待たずして即入学決定となります」
大歓声。
悔しいがさすがはテレビ局が考えた競技だけあってゲーム性が高く会場は大いに盛り上がっている。二人三脚とか玉入れとかの受験にしては意味の分からない競技よりは見ている方は面白いのかもしれない。
それにしても生徒の方はずいぶんと自信のありそうな顔をしているな。この王立ワシントン学園は1年生から6年生までいるはずだから、あいつらは6年生の可能性もある。詳しい年齢は言ってないからな。
6歳と12歳、この差は大きい。欲張って5Pを狙いに行くよりも1Pを積み重ねていった方が良いのかもしれない。そのあたりは様子を見ながら判断するしかないか。
教師のほうは完全に捨てよう。
ただ歩いているのを見ただけだが、完全に武術をやっている人間の雰囲気だった。毎日道場で同じような人たちを見ているので間違いはないだろう。金色の腰紐を取れれば即入学なんて言う美味しい餌、簡単に取らせるはずがない。
そうか!
さっきのアナウンスでは何も言っていなかったが、あいつらに自分の腰紐が取られることがあるのかもしれない。
そう考えてみれば生徒たちがニヤニヤしているのも納得できる気がする。考えすぎかもしれないが用心するに越したことは無いだろう。
「それでは皆さん準備はよろしいでしょうか?」
唾をのむ音がする。
「制限時間は30分です。皆さん校舎をご覧ください」
言われるがままに校舎を見ると白い校舎に黒い文字で残り時間30:00と表示されていた。プロジェクションマッピングか?あんなものは今までなかった。あんなことが出来る魔法があるとは知らなかった。
「時間はあちらで確認することが出来ます。腰紐が一本も無くなった人は失格となりますので速やかに退場してください」
なるほど。
ということは自分の腰紐を守ることをまずは第一に考えなければいけない。最初は教師と上級生が近くにいないところに移動しよう。そいつらと戦って一本しかないのを取られたら最悪だ。
「お互いに相手を思いやる気持ちを持って楽しくやりましょう!」
絶対に不可能な綺麗事がアナウンスから聞こえる。いちいち腹が立つやつらだな。
「それでは競技開始です!」
殺気立った雰囲気の中、開始の笛が鳴った。




