20話 ~快進撃~
レイ・フェリックスの入学試験2種目目は玉入れ。
もちろん団体戦であり、チームはランダムに振り分けられるという。最初の競技の二人三脚ではシャルルと母親の応援を受けながら、結果はダントツの最下位だったので頑張りたかった。
レイ・フェリックスはカゴを持つ係に任命された。理由としては体が大きいから。普通なら教師がやる役目だった気がするのだが断ることもできなかった。
もちろん一人でカゴを持つわけではなくて相棒がいたのだが、その相棒はなんと二人三脚のパートナーで一緒に最下位をとった太角刈りこと、ドンチッチだった。
結果は3チーム中の2位だった。
入学試験で玉入れをして、一体何が分かるのだろうと首をかしげながら席に戻ったところ、黒髪の剣術天才少女シャルルは大変にご立腹であった。
「もっとがんばりなさいよ!」
そう言われてもカゴを持つ係としては、これ以上は頑張れないほど頑張ったと思う。
カゴは見た目よりも重いしバランスが悪い、倒さないことに神経を使うので精一杯だった。その証拠に最下位のチームは、カゴを倒して中の玉を全部落としてしまったのだ。
しかしシャルル様は私の言葉を言い訳だと思ったようで納得はされず、蒸気機関車くらい鼻息が荒かった。
他の受験生たちも競技ごとにこんなプレッシャーを受けていると思うとかわいそうに思ってしまう。こっちは前世で高校生だったからまだメンタルを保てているが、普通の子供だったら泣いていてもおかしくない。
紅茶を半分くらい飲んでいたとき、また受験番号405がアナウンスされた。思ったよりも早いペースだ、早くいかないと失格になってしまう。
次は50m走。
ようやく個人種目が来た。こういうのに負けたのなら不合格になったとしても納得はできる。
「死んでも一位になりなさい!」
死んだら走れないと思うんですけどね。そんなことを言ったところでシャルル様は笑うこともしないだろうから言わないで会場へと向かう。
結果、12人中の1位だった。
席に戻るとシャルルは監督のように腕を組みながら「まずまずだな」と頷いた。
何じゃいその態度。
すると紅茶を飲む余裕もなく、また405番がアナウンスされる。次は「100m走」だという。50m走のすぐ後に100m走をやるかね普通。体力の消耗とか考えて欲しいものだ。
「行ってこい!」
シャルル監督から平手で背中を叩くという古臭い気合注入をされる。この気合の入れ方は世界が違っても同じであることに驚いたし、背中も痛い。
結果、12人中の1位だった。
席に戻るとシャルルは監督のように腕を組みながら「まずまずだな」と頷いた。
何じゃいその態度。
紅茶を飲む余裕もなく、また受験番号がアナウンスされる。次は「300mハードル」だという。50m走と100m走のすぐ後に300mハードルをやるもんかね。オリンピック選手だってこんなペースではやらないぞ。
またしても監督が平手で背中を叩くという気合注入をしてくれる。背中が痛い。さっきと同じところを叩かれたからかなり痛い。
もしその気合注入で一位を取れていると思っているのなら大間違いだ。
結果、12人中の1位だった。
ちなみにだけど、50m、100m、300mハードルを俺と一緒にやっている12人のメンバーはずっと同じメンバーだ。だから俺も疲れているが他のメンバーも、もちろん疲れている。
この無茶なやり方は時間を節約するためにやっているのだろうか。さすがに300mハードルは酷いもので、ハードルが倒れまくっていた。そりゃあそうなりますよ、運営さん。
運営に対する不信感が芽生えたところでトイレに行きたくなった。
初めて来た場所ではあるけれど、受付の所の大きな掲示板に地図があるので迷う心配はない。ただ走る競技になってから、休む間もなく呼び出されているので、すぐに行かないとまた呼び出されるかもしれない。
途中でもう一度地図を確認してから小走りでトイレに向かう。
「あのー」
途中で2人組の女子に声を掛けられた。6歳には見えないし、制服を着ているのでこの学園の生徒かもしれない。それならこの女子たちは貴族の子供であるはずだ。この学園が一般人を入学させる制度が始まったのは今年からなのだ。
「さっき一位をとってたの見てた。すごく足が早いんだね」
褒められた。
見ていたということは運営の手伝いか何かをしているのだろうか。二人とも光を弾くほどに美しいロングヘア-で上品な印象を受ける。今日は同い年の子供ばかり見ているので随分と大人っぽく見える。将来はきっととてつもない美人になるはずだ。
嬉しい。
「ありがとうと」返すと「がんばってね」と言ってくれた。
優しい。
いいぞ、いいじゃないか異世界。この世界に来て初めてそう思った。
テレビを見ていたら新人探索者が全滅したり、家族で外食に行く途中でプテラノドンが襲来してくる最悪な世界だと思っていたが、良いところもあるじゃないか。
嬉しい予想外だ。
貴族の子供と言えば性格最悪だと思い込んでいたのだが、誰もがそうというわけではないらしい。彼女たちのように清楚で可憐で素直な子もいるのだ。
格式が高いか知らないが貴族ばかりがいる学園になんか入りたくないと、流れで仕方なくやっていたような気持だったが、急にやる気が出てきた。頑張ればちゃんと見てくれている人がいるのだ。
そうだ、思い出したぞ。小学校の頃は足が速い男子がモテるんだ、そうだった。まあ俺はロリコンではないのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだがモテないよりはモテた方が良い。
そうだ、トイレに行くんだった。
走るのは駄目だ。
俺はいま注目の的だ。
走ってトイレに向かうのは大変に格好良くない。
早足で行こう。
前髪を気にしながら早足で行く。
トイレは長蛇の列だった。




