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部屋から眺める下校風景

作者: beatrice

6月も夏至を迎え梅雨明けの宣言はまだされていないが雨も降らなくなり暑さも日毎に増していくなか、私は布団に臥せてこの文章を入力している。

 この状態になってそろそろ1年だろうか。父が癌を患い通院や手術の付き添いをしていたが見つかった段階でかなり進行していた為、甲斐なく逝ってしまった。当時私は一人暮らしをしており母は兄と同居をしていたが葬儀諸々の手続きをする暇がないと言うので仕方なくー兄に任せるべきだったが自分に不利益がきても厭だったのでー債務整理や散骨の手配などを行っていた。

 散骨も済ませてやっと一区切りついたと思ったのも束の間今度は母が骨折をしたと兄から連絡が来た。母は20年ほど前に鬱病を患い薬を飲んでいたが徐々に認知症のような症状も出てきているように見え、歩く時も杖を使っていたのだが兄が無理に外に連れ出して転んでしまい脚を折ってしまった。

 そこからまた精神科、形成外科、歯医者などと連れ回すこととなったのだが家の中で倒れているのを仕事終わりの兄が見つけ、救急車を呼んだがその中で息を引き取ってしまった。

 その後の手続きも私がする事となりー兄は市営団地を出る為に不要品の処理や物件探しがあったのでー全て終わったところで今度は私が精神を病んでしまった。

 会社には療養休暇の申請を出し薬を飲みながらの生活であるが季節の変化に敏感なようで日が出ていない時は床に臥せている事が多い。

 さて、前置きが長くなったが本題に入ろうと思う。

 晴れた日には道路に面したベランダに出て空を眺めているのだが学校終わりの子どもたちの帰り道である事に初めて気付き自分にもこんな頃があったんだなと懐かしくなり、それを眺めるのが習慣になっていた。

 その日は睡魔に勝てず昼食後に小一時間ほど仮眠をとっていたのだが、子どもたちの燥ぐ声に目を覚ました。

 寝ぼけた頭でベランダに出て日光浴がてら下校の風景を眺めていると違和感を覚えた。

 雲一つない青空、鳥の鳴き声、通り過ぎる鮮やかなランドセルの色、乾いた路面。いつもと同じに見える下校の風景。

 (何だろう?何かが違う)

 違和感の正体を探ろうと私は目をこらす。そしてようやくその正体に気付いた。いつもなら私に手を振ってきたり、「お姉ちゃん」と話しかけてくる子もいるのに目を向けることすらしてこないのだ。

 気になって取り分けよく話す子が通りがかったところでこちらから話しかけたのだが素通りしていく。他の子にも試してみたが結果は変わらずだった。

 子ども達と話すのがある種の癒しになっていたのだが、相手にしてもらえなかった事にショックを覚え、再び寝たきりになってしまったが幸と言うべきか食糧の買い溜めをしており空腹も感じなくなっていたので引き篭もっても何の問題もなかった。

 しかし、朝か夜も分からずに只々眠り続ける日は唐突に終わりを告げた。玄関を激しく叩いたりインターホンの鳴る音が聞こえてきたのだ。何か怒鳴っているのは分かるが言葉として理解出来ないので居留守を決め込んだのだが、何やら騒々しい音がしたかと思うと男が2人入り込んできた。脇に吊るしたホルスターに紺色の制服、胸に付けた徽章、どうやら警官のようだ。

 だが彼らは応対しようとした私には目もくれず寝室へと上がり込んでいく。殺風景な寝室に開け放たれた窓とカーテン、万年床と化したマットレス。ーそして、そこに横たわり蟲に喰われている、私の肉体。

 「ああ、そうか。私は死んだんだった」

 それからあれやこれやと騒ぎになったようだが私の腐れた身体は処理されて二酸化炭素や水蒸気、リン酸カルシウムに分解されたようだが、魂はまだこの部屋に残っている。

 それからの私は清掃業者や内見に来た人たちを脅かしながら幽霊ライフを満喫している。

 生前と変わらないのは同じようにベランダに立って子ども達の下校を見守ることだが、1人振り返してくれる女の子がいるので近々話しかけてみようと思う。

 「1人はやっぱり寂しいもんね」

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